鳳凰三山

 7月19日~20日、3年越しのプランがやっと実現し、登山者の憧れの山“鳳凰三山”を縦走しました。“鳳凰三山” とは、山梨県の南アルプス北東部にある“地蔵岳(2,764m)・観音岳(2,841m)・薬師岳(2,780m)”の総称で、日本百名山に選ばれています。
 南アルプスと言えば、“北岳”や“甲斐駒ケ岳”が筆頭に挙げられますが、“鳳凰三山”の縦走は、それらを見渡せる南アルプス屈指の人気周遊コースです。

 今回は1泊2日の日程で、1日目は“青木鉱泉”を出発し、“ドンドコ沢登山道”を登りながら3つの滝を眺めて、ひたすら宿泊先の“鳳凰小屋”を目指します。2日目は早朝から出発し、“地蔵岳・観音岳・薬師岳”を縦走して、終着点“中道登山口”まで下ります。
 下見したスタッフによると、「素晴らしい景色に感動は間違いなし。ただしかなりキツイわよ!」とのこと。念願の“鳳凰三山”にアタックするという弾む気持ちと、少しの不安を感じながら豊橋を出発しました。

 午前6時30分、山深い鉱泉宿 “青木鉱泉” に到着。ここから“ドンドコ沢”沿いをたどります。“ドンドコ沢”という名前は、昔、沢の流れが急でその音が「ドンドコ、ドンドコ」と聞こえたことから付けられたとのこと。ところが、間違えて「ドンゾコ沢」と覚えていたスタッフがいて、一同大笑い。少し緊張がほぐれました。
 “青木鉱泉”と宿泊先の“鳳凰小屋”との標高差は約1,300m。これはなんと、富士山5合目から頂上までの標高差に匹敵します。準備運動を念入りにし、「頑張ろう!」とみんなで気合を入れて、いざ出発! 列をそろえて元気に歩き出しました。

 登山道に入り、緩やかな山道が少しずつ険しくなり、まもなくつづら折りの急登へと変わります。すると額や首から汗が噴き出してきて、たちまちびっしょり。汗をふきふき、鮮やかな広葉樹林の中、木々のアロマをたっぷりと味わいながら登っていきます。道のあちこちには、大きな岩や木の根が張り出していて歩きにくく、危険がいっぱい。落石にも注意しなければなりません。足元をしっかりと確認しながら、一歩一歩登っていきます。
 高山病にならないように歩幅は狭く、時々深呼吸をすることを心がけて、森の中をどんどん進みます。道の両側には可愛らしい白い花や大きなシダの葉、静かな森に“ヒグラシ”の甲高い鳴き声が響き渡り、心を和ませてくれました。

 熱中症予防のため、30分ごとに水飲み休憩をとります。沢のせせらぎを聞きながらひたすら登ること約2時間、最初の滝“南精進ノ滝”に到着。ここは落差50mの豪快な滝が音を立てて流れています。パワフルな滝に元気をもらい、再び傾斜のきつい登山道を登っていきます。
 次の“白糸ノ滝”でも涼をとり、12時15分、ドンドコ沢コースの1番の名所“五色ノ滝”に到着。ここまで大きな岩を「ヨイショ!」とよじ登ったり、木の枝や根にしがみついて這うように登ったりと、予想以上のハードさにみんなグロッキーぎみ。ここで長めの休憩をとりました。
 疲れた体を奮い立たせて滝つぼの近くまで下っていくと、目の前にダイナミックな2段滝、思わず「オー!」と歓声が上がります。風に乗って水しぶきが顔にかかると「気持ちいいー!」と、大はしゃぎ。滝から出るマイナスイオンをたっぷりと浴びてエネルギーをチャージし、再び登山道に戻ります。

 午後1時35分、喘ぎ喘ぎ登った長い急登がひとまず終わり、平らな場所でホッと一息。辺りを見回すと、緑の木々と石のバランスがまるで日本庭園のよう、黄色や白や紫の可憐な花もたくさん咲いていました。鳳凰三山は「花の百名山」にも選ばれています。
 先頭のスタッフの「あそこに“オベリスク”が見えるわよ!」との声に、みんな一斉に顔を上げると前方に“地蔵岳”の山頂、ひときわ高くそびえる鳳凰三山のシンボル“オベリスク”が天を突くように立っています。

 “オベリスク”とは、古代エジプトの神殿に立つ石柱のことで、地蔵岳の山頂に立つ尖った岩がそれに似ているところから、そう呼ばれています。“鳳凰三山”の名前は、この“オベリスク”が飛び立つ鳳凰のくちばしのように見えるところからきているのだとか。その鋭く尖った石柱に「すごい!」と、疲れ切った顔に笑みがこぼれました。ちなみに、この高さ18mのオベリスクに初めて登ったのは、イギリス人宣教師で登山家の“ウォルター・ウェストン”だそうです。
 “鳳凰小屋”まであと少し、最後の力を振り絞って必死に登りました。

 午後2時、出発から7時間半、ようやく“鳳凰小屋”に到着。長い長い登りを無事終え、みんな口々に「やっと着いた~」と、安堵の声がこぼれます。小屋のスタッフが笑顔で迎えてくれました。
 “鳳凰小屋”の名物は、何と言っても山から流れるおいしい清水。多くの山小屋では、水はとっても貴重ですが、ここは南アルプスの天然水が絶えず流れていて、誰でも飲み放題。その水があまりに冷たくて、ほてった体が一気に冷めました。

 小屋の周りには、オーナーが大切に育てている高山植物がいっぱい咲いています。なかでも初めて見る“キバナノアツモリソウ”はとても珍しく、黄色の袋をつけたキュートな花をみんな、じっと見つめていました。
 もう一つの名物は、夕食のカレーライスです。鳳凰小屋の夕食は1年中「カレーライスオンリー」で、お代わりは自由。カレーをおいしくいただいた後は早々に横になり、疲れた体を休めました。

 翌朝も快晴。いよいよ、楽しみにしていた“鳳凰三山”の縦走です。
 午前4時50分、鳥のさえずりを聞きながら鳳凰小屋を出発し、先ずは“地蔵岳”の頂を目指します。シラビソやコメツガの森を抜けると、花崗岩が風化してできた白砂の急登に入ります。砂は滑りやすく、1歩進んではズルッと半歩後退、間近にそびえている“オベリスク”に、なかなか近づくことができません。「ヤッホー!」と声を掛け合いながら、一歩一歩踏ん張って登っていきます。
 6時5分、やっと“地蔵岳”の山頂に到着。「やったー!」と歓声を上げながら、天に突き立っている“オベリスク”を見上げます。その大迫力に「すごーい!」の連発。岩を少し上ると、目の前に以前登った“甲斐駒ケ岳”が見え、その雄姿に再び感動の声が上がりました。

 ふと岩陰に目をやると、南アルプスでしか見られない貴重な“タカネビランジ ”を発見。ひっそりと咲いている可憐さに「きれい!」と大感激。“タカネビランジ ”は、ナデシコ科の多年草で、薄ピンク色の花がとっても可愛らしく、こうした高山植物とめぐり会えるのも、登山の大きな楽しみの一つです。

 “地蔵岳”を後にして、たくさんのお地蔵さんが並ぶ“賽(さい)の河原”へ下ります。ここは“オベリスク”のビューポイント。尖った岩の全容がくっきりと見え、思わず「かっこいい!」と叫びます。

 少し休憩して、“アカヌケ沢ノ頭(かしら)”へと白砂の道を登ります。そこからの眺めも最高で、“オベリスク”はもちろんのこと、前方に雄大な“北岳・間ノ岳” がそびえ、以前登った時の記憶がよみがえってきました。「あの時はたいへんだったねぇ」と、苦労した思い出話で盛り上がりました。

 次は2つ目の山、“観音岳”を目指します。抜けるような青い空と真っ白い砂、点在する岩と緑のハイマツの美しい稜線をうっとりと見とれながら進みます。途中、強風に耐え抜いたカラマツが生えていて、その芸術的な姿に「どんな高価な盆栽にも負けないね」と大絶賛。登山道の脇には淡い色の“ハクサンシャクナゲ ”が咲き、心癒されながら黙々と進んでいきます。
 8時45分、“地蔵岳”から約2時間半、鳳凰三山の最高峰“観音岳”の山頂に到着。振り返ると、たどってきた稜線がくっきりと見え「あんなすごいところを歩いてきたんだね」と、改めてビックリ!

 西側には“白根三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)”、南側にはこれから登る“薬師岳”の頂、そのすぐ上に“富士山”のシルエットも浮かび上がり、みんな大興奮。贅沢な大絶景を眺めながらお弁当を食べました。 
 9時25分、最後の山“薬師岳”に向けて出発。山頂への稜線もまた美しく、まさに“天空のプロムナード”。自然の美を堪能しながら進みます。10時10分、明るく開けた“薬師岳”の山頂に到着。そこは白砂と岩と緑のハイマツが織りなす日本庭園のよう、岩の片隅にたくさんのタカネビランジが咲いていました。
 山頂からは、リニューアル中の赤い屋根の“薬師小屋” が見え、「今度来るときは、あの小屋に泊まりましょう!」と誓い合いました。

 10時35分、360度の大展望をしっかりと目に焼き付け、長い“中道ルート”を下っていきます。急で歩きにくい下山道を景色に気をとられて滑らないよう注意しながら進みます。クマザサが茂るダケカンバの林、手入れの行き届いた針葉樹林、カラマツの林を黙々と下っていきます。長い下り坂にだんだん足元がおぼつかなくなってきて、転倒するスタッフが続出。休憩をこまめにとりました。
 午後3時30分、約5時間かけて全員が無事下り終え、“中道登山口”に到着。ヘトヘトでしたが「きつかった~、でもよく頑張ったね」と、健闘をたたえ合いました。
 2日目の総タイムは、10時間40分。1日目と合わせると約18時間のハードな登山でした。汗だくで、全身クタクタの厳しい登山でしたが、予想以上の大絶景に出会うことができ、心は充実感でいっぱいでした。

 今年も、全国各地で大雨による被害が発生し、多くの方々が苦しい生活を強いられています。被災された方々には、心からお見舞い申し上げます。猛暑の中、後片付けに追われている皆様のご苦労を思うと、胸が痛みます。気力を振り絞って頑張っておられるであろう皆様が、一日も早く安定した生活を取り戻すことができるよう、スタッフ一同、心より祈っております。

双六岳

 8月に西伊豆での “シュノーケリング” を無事終え、「さぁ、次はいよいよ登山だ!」 と、その日が来るのを今か今かと待っていました。ところが例年にない長雨と台風で、なかなか日程が決まりません。10月になりようやく天候が安定し、12日~13日、かねてから予定していた  “双六岳” 登山に決定しました。

 “双六岳” は、長野県と岐阜県にまたがる北アルプスの裏銀座縦走コースに位置し、標高は2860m。百名山ではありませんが、頂からの槍ヶ岳 ・ 穂高連峰の眺めが素晴らしいことで知られています。

 今回の日程は1泊2日。“新穂高登山口” からスタートし、“わさび平小屋” “鏡平” を経て、“双六小屋” に宿泊。2日目の朝、“双六岳” の登頂を果たし、前日と同じルートで下山します。下見をしたスタッフによると 「かなりのロングコースだけど、眺めは最高!」 とのこと。登山は、4月に “御在所岳(1209.8m)” に登って以来、実に半年ぶり、大きな期待と少しの不安を胸に、豊橋を出発しました。

 午前6時、“新穂高登山口” に到着。澄んだ冷気を全身で感じながら準備運動をし、いざ出発。緑に囲まれたよく整備された林道を元気に歩き始めました。緩やかな道が足馴らしに丁度よく、久しぶりの登山に心が弾みます。

 7時25分、“わさび平小屋” に到着、ここで小休憩。すると 「あっ、湯気が出てる!」 という声に目をやると、リュックを下したスタッフの背中から白い湯気が上がっています。それを見てみんな、笑みがこぼれました。

 “わさび平小屋” を出発し、25分ほどで “小池新道入口” に到着。ここから本格的な登山が始まります。大小の岩が敷き詰められた “小池新道” は、昭和30年、当時の双六小屋の経営者 “小池義清” 氏によって開発 ・ 整備された登山道で、先人たちの思いのこもった道を登って行きます。全身汗だくの体に時おり吹く風がとても心地よく、思わず 「いい風!」 とホッと一息。ところどころ紅葉が進み、ナナカマドの実が真っ赤に色づいていました。

 目の前に北アルプスのシンボル “槍ヶ岳” が見えてきました。鋭く尖った槍の穂先を見つめ、「よくあんな険しい山に登れたわね~」 と、その時の情景がよみがえってきました。

 午前9時、透明な水が流れる “秩父沢” に到着。冷たい水で手を洗い、青い空に映える山並みを眺めながら涼をとります。元気を取り戻し、再び岩がゴロゴロした急登を一歩一歩踏みしめながら登っていきます。時々「ヤッホー!」と声をかけ合いながら喘ぎ喘ぎ登っていくと、「“鏡平” まで500メートル」 と書かれた岩を発見。「もう少しだ、頑張ろう!」 と力が湧いてきました。

 11時45分、出発から5時間半、やっと “鏡池 (鏡平)” に到着。体はもうヘトヘトでしたが、周りの木々をくっきりと映し出している “鏡池” に、ホッと心が癒されました。すぐ先の “鏡平山荘” に着くと、突然冷たい風が吹つけ、風花が舞い始めました。みんな一斉に 「あっ、雪だ!」 と空を見上げます。冬が間近に迫ってきていることを感じました。
 長めの休憩をとり、“双六小屋” に向けて出発。行く手を見上げると、縦走路がどこまでも続いています。まだまだ険しい道を登って行かなければと、気持ちが引き締まりました。鮮やかな緑の笹が生い茂る道を、黙々と登っていきます。

 午後1時40分、“弓折乗越” に到着。ここは絶景ポイント、槍ヶ岳と穂高連峰の美しい綾線が目の前に広がり、疲れが一気に吹き飛びました。ダイナミックな山並みに 「すごい迫力!」 と、感動の声。ずっと見ていたい気持ちを抑えて、再び出発。アップダウンの道を進むと、遠くに “双六小屋” の赤い屋根が現れました。「あっ、やっと見えた!」 と弾んだ声、「もうひと踏ん張りよ!」 と気合をかけて必死に歩きました。

 3時25分、ようやく “双六小屋” に到着。するとまた雪がチラチラと舞い、山小屋の人によると “初雪” だとか、まるで私たちを歓迎してくれているようでした。出発から約9時間、みんな無事着いたことに安堵し、「よく頑張ったね」 と労いの言葉をかけ合いました。

 “双六小屋” はとてもきれいで、夕食は名物の “天ぷらの盛り合わせ”、衣がカリッとしていてとてもおいしくいただきました。10月ともなると予想以上に寒く、布団にくるまり早めに就寝しました。

 翌朝6時15分、“双六岳” の頂を目指します。冷たい風が吹きつける中、這い松が生い茂る急登を、足元に注意しながら登っていきます。途中で振り返ると、遥か下の方に山小屋が見え、高いところまで登ってきたことを実感。目の前には穂高連峰・槍ヶ岳・西鎌尾根などの稜線がくっきり、峰々が競い合っているような山容は迫力満点です。

 7時30分、山頂に到着、「ヤッター!」 と歓声が上がります。そこは高い山には珍しく広く開けていて、360度の大パノラマ。北アルプスはもちろんのこと、南アルプスから中央アルプスまで、名だたる山々を見渡すことができます。雲海のかなたには白山も見え、みんな「すごい、素晴らしい!」の連発。「苦労して登ってきて良かったね」 と、絶景に出会えた喜びを噛みしめていました。大展望をしっかりと目に焼き付け、“双六小屋” に戻りました。

 9時、身支度を整えて下山開始。小屋の前の池には薄く氷が張り、道の両端にはたくさんの霜柱が立っていました。天気予報は曇りでしたが、晴天に恵まれラッキー! 足元に注意しながら大絶景を道づれに下っていきます。北アルプスのくっきりとした綾線は何度見ても大迫力、大自然の美をたっぷりと味わいました。“わさび平小屋” を越え、「あと少し、あと少し!」 と自分に言い聞かせ、最後の気力を振り絞って必死に歩きました。
 午後4時、全員無事、登山口に到着。「やっと着いた~」 と安堵の声が上がりました。2日間の総歩行時間は約15時間。とてもハードな登山で、足は棒のようでしたが、心は達成感と一級品の展望に出会えた喜びでいっぱいでした。

 双六岳登山で気をよくした私たちは、なんとその1週間後、日帰りで八ヶ岳の “西岳(2398m)” から “編笠山(2524m)” を縦走しました。約10時間の超ロングコースでしたが、山頂から見た八ヶ岳の峰々と、雲に浮かんだ富士山のシルエットがとても美しく、これも忘れられない登山となりました。