木曽駒ヶ岳

 暑かった夏がようやく終わり、過ごしやすくなってきたので登山に行くことにしました。今回は、以前にも登ったことがある中央アルプスの最高峰“木曽駒ケ岳(2,956m)”に決定。木曽駒ケ岳は、バスとロープウェイを乗り継いで2,612mまで上がることができるので、手軽に3,000m級の景色を楽しむことができます。古くから山岳信仰の山として知られ、日本百名山・花の百名山にも選ばれています。

 今回のコースは、観光地としても大人気の“千畳敷カール”を通って“八丁坂”と呼ばれる急な坂を登り、“中岳(2,925m)”の頂を越えて“木曽駒ケ岳”の山頂を目指します。3か月ぶりの登山とあって、みんな「素晴らしい紅葉に出会えるかもしれない」と、期待に胸を膨らませていました。

 10月6日午前5時40分、長野県駒ケ根市の“菅の台バスセンター”に到着。すると切符を求める人の長蛇の列。「平日なのにすごい人!」とみんなビックリ、人気の高さがうかがえました。幸いにも私たちは事前に予約をしていたので、その列には並ばずにバスに乗ることができました。

 バスは自然に囲まれた細い道をどんどん登っていき、30分ほどで“しらび平駅(1,662m)”に到着。そこから“駒ケ岳ロープウェイ”に乗り換えます。駒ケ岳ロープウェイは高低差が日本最高、950mを7分30秒で一気に登っていきます。

 ロープウェイから景色を眺めていると、緑一色の山に赤や黄色が加わり、思わず「わあ、きれい!」と、みんなの目が釘付けになりました。日本最高所の駅“千畳敷駅(2,612m)”に着く頃には紅葉は終わり、季節の移り変わりを一瞬で見ることができました。

 午前7時30分、“千畳敷駅”に到着。外に出ると冷たい風が吹きつけ、みんな体を震わせています。目の前には、氷河によって大きく削られた“千畳敷カール”が広がり、「すごーい!」と感動の声。カールは辺り一面草もみじ、まずは“八丁坂”を目指して歩き出しました。水たまりには氷が張っていて、「寒いはずね」との声。

 “八丁坂”は巨岩を敷き詰めたようなつづら折りの道、そこを一歩一歩登っていきます。いつもなら、登り始めるとすぐに汗が吹き出てきますが、今回は全く出ず、標高の高さを感じました。時折、後ろを振り返ってはカールの雄大さに息をのみ、また登っていきます。

 出発から1時間、八丁坂を登り切ると“乗越浄土(のっこしじょうど)”に到着。すると視界が一気に開け、次に目指す“中岳”の頂が見えます。ここは360度の大パノラマ、眼下には千畳敷カール、目の前には“宝剣岳(2,931m)”の荒々しい岩の頂がそびえています。ひとすじの白い雲海がどこまでも伸びていて、その奥に連なる青い稜線をたどっていくと、うっすらと富士山のシルエットも見え、みんな大感激。しばらく絶景を楽しみ、再び歩き出しました。時々深呼吸をしながら、石がゴロゴロした登山道をもくもくと登っていきます。

 午前9時10分、“中岳”の頂に到着。山頂には大きな岩がごつごつと突き出していて、ここで初めて今回の目的地“木曽駒ケ岳”の山容が見えました。こんもりとした山に一筋の登山道が頂まで伸びています。

 中岳からはいったん岩場を下り、“駒ケ岳頂上山荘”の前で小休憩。エネルギーをチャージして、“木曽駒ケ岳”の頂を目指します。緩やかで歩きやすい登山道を一歩一歩登っていきます。足元にはハイマツが生い茂り、鮮やかな緑が心を癒してくれました。

 午前10時15分、“木曽駒ケ岳”の頂に到着。山頂には“駒ケ岳神社”があり、石柱で囲まれた“伊奈社殿(いなしゃでん)”と“木曽社殿(きそしゃでん)”が建っています。山頂は広く、大勢の登山者で賑わっていました。ここも360度の大パノラマ、前回登った恵那山をはじめ、御嶽山・蓼科山・南アルプス・北アルプスなど、名だたる山々の稜線がくっきりと見えました。「苦労しないでこんな絶景を味わえるなんて、最高!」と歓声。みんな、雄大な眺めに見とれていました。風を避けて社殿の石壁の前に座り、お弁当タイム。

 午前10時50分、下山開始。ハイマツが茂る登山道を慎重に下っていきます。中岳の頂に差し掛かる頃には曇っていた空が晴れ渡り、真っ青な空が木曽駒ケ岳の美しさをいっそう引き立てていました。暖かい陽が差し込むと、みんなの顔もほころびました。

 転ばないように注意しながら八丁坂を下り、午後2時、“千畳敷駅”に戻ってきました。木曽駒ケ岳は大人気の山とあって、多くの登山者と行き交いました。総タイムは6時間30分、歩行タイムは4時間20分。久しぶりに大展望を堪能し、みんな大満足。期待していた紅葉は終わっていましたが、「晩秋の千畳敷も、またステキ!」と、雄大な景色をしっかりと目に焼き付けました。

 登山の楽しみの一つに、珍しい高山植物や野生動物との出会いがあります。いつもそれを期待しているのですが、野生動物にはなかなか出会えません。ところが、駒ケ岳から帰った翌日、なんと、健康フレンドのすぐ前の道路に“カモシカ”が出没。フレンドの裏山にカモシカがいることは聞いていましたが、まさか民家にまで出てくるとは、びっくり仰天! 遭遇したスタッフがすかさずスマホでパチリ、それがこの写真です。言うまでもなく、大いに盛り上がりました。

燕岳から常念岳

 長い梅雨がようやく明け、夏山登山の第二弾として昨年から計画していた“燕岳・大天井岳・常念岳”を結ぶ縦走コースに挑みました。
 “燕岳(つばくろだけ 2763m)”は、北アルプスの中でも危険箇所がないため、北アルプス入門の山としてよく知られています。私たちも9年前に登り、その時は暑さでヘトヘトになりました。“大天井岳(おてんしょうだけ 2922m)”は、地元では「だいてんじょう」とも呼ばれています。名前の由来は、安曇野を見下ろしている松本城の天守閣のように高くそびえているところから「おてんしゅかく」と言われ、それがなまって「おてんしょう」と呼ばれるようになったとのこと。“常念岳(2857m)”は常念山脈の主峰で、日本百名山に選ばれています。燕岳から常念岳の縦走路が素晴らしく、登山者に大人気のコースです。今回の日程は2泊3日、大自然をゆっくりと満喫できるとあって、みんなその日がくるのを心待ちにしていました。

 7月30日午前5時40分、燕岳の登山口“中房温泉”に降り立ちました。登山口は多くの人で賑わい、みんな楽しそうに笑っています。絶好の登山日和、どんな絶景に出会えるのか、私たちもワクワクしながら身支度を整えました。
 6時、まっすぐに伸びたカラマツの林の中を元気に出発。登山道の両脇には笹やシダが生い茂り、緑に囲まれた急登を頑張って登っていきます。ザーザーと響く沢の音に混じって、ウグイスの声も聞こえてきます。木々の間から眩しい光が射し込み、額から汗が吹き出してきました。
 “燕岳”は大人気の山とあって、休憩ポイントには登山者がいっぱい。登山道では、子供連れの家族や若者や熟年グループなどに道を譲ったり譲られたり、その度に「こんにちは」とあいさつを交わします。

 こまめに休憩をとりながら、北アルプス三大急登の一つ“合戦尾根”を登っていきます。大きな石や木の根っこを乗り越え、「ヤッホー!」と声をかけ合いながら、一歩一歩登っていきます。木の間から稜線が見えると、高い所まで登ってきたことを実感。足元には白いヤマハハコやかわいらしいクルマユリが咲き、花々に力をもらいながら必死に登っていきます。全身、汗でぐっしょり、時折吹く風に思わず「気持ちいい~」と、ホッと一息。

 10時、“合戦小屋”に到着。さっそく、名物のスイカをいただきました。みんな目を輝かせてスイカにかぶりつき、「おいしい!」と歓声。乾いた体にスイカがしみ渡り、「生き返った~」と、みんなの顔に笑みが戻ってきました。
合戦小屋では、多くの人がお目当てのスイカを食べています。赤トンボがたくさん飛び交う中、10時30分、元気を取り戻して再び出発。
 登山道の脇には高山植物がいっぱい、黄色いシナノキンバイや白いチングルマが咲き、ハイマツは大きな松かさをつけています。1時間ほど登ると、遠くに“燕山荘”の赤い屋根が見え、「あと少しよ!」のかけ声に力が湧いてきました。時々霧がかかり、一瞬で周りの景色が見えなくなってしまいました。
 どこからか甘い香りが漂ってくると、斜面一帯にお花畑が広がり「わあ、きれい!」と、疲れが一気に吹き飛びました。山吹色のニッコウキスゲやピンク色のハクサンフウロなど色とりどりの花が咲き、モンシロチョウやミツバチも飛んでいました。
 カラフルなテント場を過ぎ、12時5分、やっと“燕山荘”に到着。目の前にそびえる燕岳の山容は、実に見事です。

 午後1時15分、重いリュックをアタックザックに換え、頂に向けて出発。緑のハイマツと白砂の綾線を進んでいくと、9年前に登った時の光景が一気に甦ってきました。白い斜面にはピンク色の可憐なコマクサが点々と咲き、「こんなにたくさんのコマクサを見るのは久しぶり!」と、みんな大感激。所々に花崗岩の奇岩が突き出ていて、イルカの顔にそっくりなイルカ岩や、まるで遺跡のようなメガネ岩にみんな見入っていました。ふと見ると、岩の上に青いチシマギキョウが風に吹かれて咲いています。 
 1時45分、岩の頂に到着、「ヤッター!」と大歓声。雲が徐々に晴れてくると、真っ白い雪渓が残る北アルプスの峰々が、目の前に広がっていました。360度の大展望、たどってきた稜線の先には赤い屋根の燕山荘、その先には表銀座の縦走路が続いています。それを指で追って「明日はあの道を進んでいくのね」と確認し合いました。
 たっぷりと絶景を味わい、2時25分、山荘に戻ってきました。「燕岳は、やっぱり美しい山ね」と、うっとり。しかも登りやすいとあって、人気の高さが頷けました。

 燕山荘では、夕食時に四季のビデオを流し、オーナーが話をしてくれます。合戦小屋で捨てていたスイカの皮をお目当てにクマが現れたことや、登山道にロープを張ったことでコマクサが増えてきたことや、登山をするにあたっての注意点など、おもしろい話やためになる話をたくさん聞くことができました。館内はとてもきれいで、みんなゆっくり休みました。

 7月31日午前5時、2日目の朝を迎えました。山荘の前では大勢の登山客が、今か今かと御来光を待っています。天気は快晴ですが、強い風が吹き上げてきます。まずは“大天井岳”を目指して、いざ出発。遥かに続く表銀座の縦走路を歩いていきます。
 ハイマツ帯の登山道の眺めは最高、右手には絶えず雄大な北アルプスの岩峰。足元には、緑のハイマツの中に隠れるようにして白いハクサンシャクナゲが色を添えています。
 ゆるやかな傾斜の登山道をどんどん進み、大きな蛙岩(ゲロイワ)で小休憩。岩陰に黄色いミヤマキンバイが咲いています。さらに歩いていくと、日の当たる南側の斜面一帯に、お花畑が広がっていました。
 7時、お弁当タイム。“槍ヶ岳”と“穂高連峰”を眺めながらおにぎりを頬張ります。燕山荘のお弁当は、おこわのおにぎりが2つ、おかずも付いてボリュームたっぷり、心もおなかも満たされました。

 表銀座からの眺めは絶景の連続、右手には北アルプスの峰々、前方には真っ青な空に映える“大天井岳”がドーンとそびえています。振り返ると、たどってきた稜線の先には燕山荘、その先には燕岳が見え「遠くまで来たわね」と、みんな感無量。稜線をひたすら歩いていくと、岩場に急な階段が取り付けられています。そこを慎重に下ると、このコースを開いた小林喜作のレリーフが岩に刻まれています。ここから2日目一番の難所の登りが始まります。
 登山道は大天井岳の山肌を巻くように続いていて、岩がゴロゴロした道を一歩一歩踏みしめながら登っていきます。周りの景色を眺めたり、足元に咲く花々に癒されながらゆっくりと登っていきます。上空では物資を運ぶヘリコプターが何度も往復し、静かな山にプロペラの音が響き渡っていました。
 9時10分、大天井岳の頂上近くにある山小屋“大天荘”に到着。アタックザックで目の前の頂を目指します。

 大きな岩が積み重なった緩やかな岩場を登って行くと、15分ほどで頂に到着。そこには赤い小さな祠が置かれています。ちょうど雲が晴れ、槍ヶ岳の穂がくっきりと見え、その雄姿に思わず「すごーい!」と感動の声。こんなに間近に槍ヶ岳を見るのは久しぶり、みんな目が釘付けになりました。大天井岳の頂は、槍ヶ岳と穂高連峰を眺める絶好のビューポイント、心ゆくまで絶景を味わいました。

 10時30分、身支度を整え、大天荘を出発。“常念小屋”を目指します。下見をしたスタッフによると、まだまだ素晴らしい景色が続くとのこと、みんな期待に胸を膨らませて歩きだしました。白砂の登山道の脇には、コマクサが点々と咲いていました。
 ハイマツ帯の道を登ったり下ったり、右手に槍ヶ岳や穂高連峰・涸沢カールの大雪渓を眺めながら黙々と進んでいきます。
 1時間ほどで“東天井岳分岐”に到着。どこからか涼しい風が吹いてくると思ったら、すぐ下に大きな雪渓が残っていました。再び歩きだすと、斜面にお花畑が広がっています。辺り一面ハイマツの緑に覆われ、天空のプロムナードからの眺めは、見ごたえたっぷり。

 しばらく行くと見る見る霧が発生し、あっという間に真っ白、何も見えなくなってしまいました。霧が出たり晴れたり、「こんな日はライチョウが見られるかもしれないわね」と話していると、突然、ライチョウの親子が出現。まるまるしたお母さんと、少し成長した子供が2羽、葉っぱをついばんでいます。みんな声をひそめて「ラッキー!」と大興奮。じっと親子の様子を見つめていました。
 霧が薄くなると行く手に常念小屋の赤い屋根が見えてきました。「もう少しよ、頑張って!」の声に励まされて、針葉樹林の茂みの中を下っていきます。
森林を抜けると一気に視界が開け、黄色やオレンジ色のテント場が見えます。午後2時10分、やっと“常念小屋”に到着。朝5時に燕山荘を出てから約9時間、ロングコースにみんなヘトヘト、でも大絶景が続く稜線歩きに、みんな大満足でした。

 8月1日午前5時、3日目の朝を迎えました。この日も快晴、槍ヶ岳と穂高連峰が朝日に輝いています。山荘の前には“常念岳”の頂がそびえていて、頂を目指す登山者の姿が小さく見えました。みんなかなり疲れていたので、常念岳の頂へ登るのは断念。頂を背景に写真を撮り、下山の準備に取り掛かりました。

 6時、北アルプスの絶景をしっかりと目に焼き付け、下山開始。針葉樹林の茂みの中、石がゴロゴロした急な登山道をひたすら下っていきます。辺りは緑がいっぱい、実をつけたナナカマドもあります。鳥のさえずりに混じって、ザーザーと沢の音が聞こえてきます。下るに従ってその音が段々大きくなっていきました。
 50分ほど下ると、水が激しく流れている一ノ沢に到着。沢の上の方には雪渓が残っていて、冷たい水で涼をとりました。そこから沢沿いの道をどんどん下っていきます。斜面に広がるお花畑にはニッコウキスゲが満開、たくさんのトンボが舞っていました。小さな沢や丸太でてきた橋をいくつも渡りながら、黙々と下っていきます。

 9時15分、“大滝”を通過したところで小休憩。汗でびっしょりになった体を冷まし、再び出発。登山道の周りはしだいに笹原に変わり、どこからかキャラメルを焦がしたような甘い香りがプーンと漂ってきました。これは地面に落ちた桂の葉っぱの香りです。
 左手に小さな山の神の祠と鳥居が現れ、辺りは苔むした石や木が増えてきました。もう少しで到着というところで、サルの群れを発見。ぴょんぴょんと跳ねていくサルを目で追い「最後にご褒美をもらった気分!」と、みんな大喜び。
10時50分、全員無事に“一ノ沢登山口”に到着。汗だくで疲れきってはいましたが、みんな縦走をやり遂げた達成感に包まれ、笑顔が輝いていました。

 3日間の歩行時間は約17時間半。美しい花崗岩の燕岳、槍ヶ岳と穂高連峰の雄姿、心が洗われるような天空のプロムナード、たくさんの高山植物やライチョウとの出会いなど、登山の醍醐味を満喫することができました。みんなの心にまた一つ、忘れられない思い出が増えました。