医者という病 ①

 皆さんは、“和田秀樹”氏をご存じでしょうか。現在63歳で、精神科医として老年精神医学を専門とし、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっています。また、教育・医療・経済などの評論家でもあり、これまで数多くの著書を出しています。他にも大学や塾の講師、映画監督といった異色の経歴まで持っています。

 その彼が、昨年著した『医者という病』の中で、医者や大学病院・製薬会社など、医療界にはびこっているさまざまな闇を赤裸々に暴いています。今回は、この本を少しご紹介したいと思います。

 皆さんは、山崎豊子原作の『白い巨塔』(1965年発行)を読まれたことがあるでしょうか。大学病院に勤務する二人の医師を通して、医局制度の問題や医学界の腐敗を鋭く追及した小説です。映画やドラマ化されたので、一度はご覧になったことがあるのではないかと思います。和田氏の『医者という病』には、この『白い巨塔』を彷彿とさせる内容が随所に載っています。

 和田氏は、医学部には強力なヒエラルキーがあり、そのトップに立つ教授がとてつもなく強い権力を持ち、この構図をめぐる利権が医療業界に闇をつくり出していることを述べています。例えば、教授たちにとって都合の悪い研究や新しい研究は、それが患者にとってプラスであっても認められないと言います。声を上げたくても、医療界では自分より立場が上の医者には絶対に逆らえない状況にあるとのこと。また、大学医学部の入試には必ず面接があり、面接官はもちろん教授で、教授の意にそう素直で従順な者が合格するようになっているとも述べています。まさに『白い巨塔』の世界が、いまだに歴然と存在しているようです。

 私たちも、医療界にそうした権力と利権が絡む闇があることは知っていましたが、それが日本の医療の進歩を遅らせているという現実に、唖然としました。そして、そうした闇の中で葛藤しながら必死に患者の病と向き合っている医師たちに、心からの感謝とエールを送りたいと思いました。

 大学病院と言えば、多くの人は優秀な医師がいて、常に最先端の医療が受けられ、どこよりも安心だと思っていますが、実際はそうとは言えないようです。和田氏によると、大学病院では教育や研究が重視されるため、臨床は得意ではなく、日本の大学病院は世界的に見ても、二流、三流の医療しか提供していないのだとか。特に複数の病気を持つ高齢者には、大学病院へ行くことは危険だと、はっきり言っています。これには、驚いた方も多いのではないでしょうか。

 大学病院では、それぞれの科に分かれて診療が行われているため、一つの病気ならいいですが、複数の病気を持つ高齢者の場合、どうしてもたくさんの薬が処方されることになってしまいます。そのため和田氏は、専門医ではなく、患者の体を総合的に診察することができる“総合診療”を勧めています。とは言え、今の日本の大学医学部には、総合診療を教えられる医師がほとんどいないのが現状だそうです。

 もう一つ和田氏が勧めているのが、地元で評判の良い“町医者”をかかりつけ医にすることです。その際、患者の話や要望をしっかりと聞いてくれる医者であるかがポイントです。和田氏は、医者の言うことは必ずしも正しいわけではないことを強調し、自分の価値観で治療法を選ぶという意識を持つことの大切さを述べています。さらに「自分の幸せとはどのようなものか、どのような人生を送りたいのか、万が一の場合はどうしたいのかを考え、もしもの時にはどういう対応にしてほしいのか、どんな環境で最期を迎えたいのかをしっかりと考えておいてほしい」とも述べています。そして最後に、読者に向けて「医者という病」に侵されず、楽しく、豊かで、健やかな人生を送ってほしいと示しています。

 私たちも、医者の言うことがすべて正しいとは考えていません。それは、医療界の構造もそうですが、現代西洋医学自体が未熟な段階にあると考えているからです。和田氏も述べているように、自分はどんな人生を歩んでいきたいのかをしっかりと考え、悔いのない人生を送るためにも、治療法などを自ら選んでいくことが大切であると思っています。皆さんは、どのように考えていらっしゃるでしょうか。

 次回は『医者という病』の第2弾として、和田氏が指摘している薬と検査の問題について少しご紹介したいと思います。

 年明け早々、能登半島で大きな地震が起こり、甚大な被害をもたらしました。震災から1か月以上が経ちますが、いまだ多くの人々が厳しい避難生活を強いられています。被害に遭われた方々の心痛とご苦労を思うと、本当に胸が痛みます。被災された方々が、一日も早く安定した生活を取り戻すことができますよう、また寒さと疲労で体調を崩すことがありませんよう、スタッフ一同、心よりお祈り申し上げます。