最強の寝たきり予防法

 2030年には、日本は3人に1人が65歳以上になるという“超高齢社会”を迎えます。「年をとっても元気でいたい。寝たきりや要介護の生活にはなりたくない!」というのが、多くの人の願いではないでしょうか。今、その願いを叶えるための新対策が世界中で発表され、注目を集めています。
 先月、NHKの健康番組“ガッテン!”で「筋肉&血管を強くする!世界が証明した“究極の寝たきり予防法”」と題して、最新の研究結果が紹介されました。私たちが提唱している“ホリスティック健康学”に通じる内容でしたので、今回はこの番組を簡単にご紹介したいと思います。

 番組では初めに、アメリカ・カリフォルニア大学で長生きの仕組みと要因を研究している“スティーブ・コール”教授の研究結果が取り上げられました。
 研究は、健康に問題のない160名を3つのグループに分け、次のことを毎日欠かさず行ってもらうというものです。

● 1つ目のグループは、友人の荷物を持ってあげるなど「人に親切にする」
● 2つ目のグル―プは、道端のゴミを拾うなど「世の中に役立つことをする」
● 3つ目のグループは、好きなものを食べるなど「自分が嬉しいと感じることをする」

 これを1カ月間継続し、詳しく血液検査をしたところ驚きの結果が生じました。あるグループにだけ、免疫系の遺伝子の働きに大きな変化が現れ、寝たきりを防ぐ最良の方法であることが判明しました。 
 皆さんは、どのグループだと思われますか?  正解は何と、1つ目の「人に親切にする」グループでした。このグループだけが、寝たきりにならないように遺伝子の働きがコントロールされていることが分かったのです。

 以前“スタッフだより”で、糖尿病や動脈硬化などさまざまな病気の原因に “慢性炎症” が大きく関わり、健康長寿にはその炎症を抑えることが重要であると述べました。コール教授の研究によって、人に親切にすることでこの炎症物質を出させる遺伝子があまり働かなくなり、炎症を抑えることが実証されました。しかも、このグループの人にだけ著しく炎症が減少し、「世の中に役立つことをする」グループの人には全く見られず、「自分が嬉しいと感じることをする」グループの人は炎症が増加していました。人に親切にしている人としていない人とでは、年間の死亡リスクが50%も違うそうです。
 この結果に対してコール教授は、それには人類の進化の歴史に答えがあるとし、「人間は他人に親切にすることで喜びを感じ、身体に良い反応をするようにプログラムされているのだと思う」と述べていました。

 日本でも、東京大学高齢社会総合研究機構の“飯島勝矢”教授によって、千葉県柏市に住む高齢者5万人を対象に、“運動”と“人とのつながり”による「寝たきりになる危険度調査」が行われました。その結果、「運動と人とのつながりの両方ともしていない人」の危険度が最も高く、それを基準にすると、「運動だけをしている人」の危険度は半分以下に、「人とのつながりだけをしている人」の危険度は8分の1に、「両方している人」の危険度は16分の1にまで減少することが判明。人とのつながりは、運動以上に重要であることが明らかになりました。飯島教授は「これほどまでに大きな違いが現れたことに驚いている」と述べていました。私たちも、この激減にはビックリ!

 番組では、そのいい例として1組のご夫婦を取り上げていました。ご主人は運動が大好きで1万歩のウォーキングが日課、奥さんは運動が苦手でピアノを弾いたり英語の詩を読むという文化系。2人の寝たきりになる危険度を調べたところ、ご主人の方が高いという結果が現れました。ご主人は、運動はしていても人とのつながりはほとんどなく、人との会話もあまりありませんでした。一方、奥さんは、運動はしていませんが友人たちとの茶話会やグループ活動に忙しくしていました。
 寝たきりの予防には、一人でしっかり運動するよりも、グループ活動に参加したり、グループでの運動の方がより効果的というわけです。

 さらに番組では、世界的にインパクトを与えたアメリカの研究結果が紹介されました。研究は世界中の148個の研究データ(対象者は約30万人)を再解析し、長生きにプラスに働く影響度について調査したものです。結果は、これまで長生きにプラスとなる要因とされてきた「禁煙」「酒を飲み過ぎない」「運動」「肥満予防」これらよりも「人とのつながり」の方がより長生きにプラスの影響を及ぼしていることが分かりました。
 「人とのつながり」つまり心の状態が、いかに健康に大きな影響を与えているかがよく示されています。

 今年1月、イギリスで“孤独担当大臣”が誕生しました。孤独はお年寄りだけでなく全世代にわたる深刻な問題とし、イギリス政府は数百万ポンド(数億円)を投じる予定だと言います。そのきっかけとなったのが、ロンドン大学で加齢研究をしている“アンドリュー・ステップトー”教授の研究です。
 研究は50才以上の男女6500人を対象に、「人とのつながり」を調べ7年間追跡。その結果、人とのつながりが少ない人ほど死亡率が高いことが判明しました。
 今イギリスでは「孤独撲滅キャンペーン」が展開され、人とのつながりの大切さを訴えるテレビCMが流れているそうです。

 番組の最後に、週に1回でも同居の家族以外の人とのつながりがあるだけで、身体の機能が衰えにくくなることを述べていました。
 皆さんは、どれだけ人とのつながりを持っていらっしゃるでしょうか。

 私たちが提唱している“ホリスティック健康学”でも、健康には心の要素がきわめて重要であるとしています。「心の健全さ(利他的な心)」は、健康をつくる4つの柱「心・食・運動・休養」の中で最も重要な要素です。心の健全さは、人と接する中で育まれるものです。人に親切にする・人に奉仕するといった利他愛の喜びから得られるものなのです。

 私たちもこうした最新の情報を知り、これからも人との触れ合いを求め、人の役に立つような歩みをしていきたいと改めて思いました。
 近年、日本でも高齢者の“孤独死”が問題視されています。国民的番組である“ガッテン!”で、人とつながること・人に親切にすることの重要性が述べられたことは、間違いなく訪れる超高齢社会をどう乗り切っていったらいいのか、そのヒントになったように思います。

スポーツの正しいあり方について

 日本中が熱気にわいたリオデジャネイロ五輪・パラリンピックが閉幕しました。閉会式では、小池都知事がパラリンピック旗を受け取り、たおやかに振っていました。その姿に多くの日本人が、「次は、いよいよ東京オリンピック・パラリンピックだ!」と思われたのではないでしょうか。

 今回のリオ五輪・パラリンピックでは、日本選手が65個のメダルを獲得し、熱戦が終わるたびに選手たちの歓喜の声や悔し涙が放映されました。皆さんの中にも、夜を徹して応援したという方がいらしたのではないかと思います。私たちも、日本に銀メダルをもたらした陸上男子400mリレーでは、思わず「ヤッター!」と歓声を上げ、選手たちに拍手を送りました。
 しかしその一方で、オリンピックやプロスポーツを観るたびに思うことがあります。それは「スポーツの正しいあり方」についてです。今回はそれについて、私たちの考えを少し述べてみたいと思います。 

 これまで何度も述べてきましたが、人間が健康を手にするためには「心・食・運動・休養」の4つの柱をすべて同時に高めるように努力することが必要です。どれ一つ欠けても、健康を維持することはできません。
 運動は肉体だけでなく、心の健康にも大きな影響を及ぼします。適度な運動によって質のよい睡眠をとることができ、ストレス解消にも役立ちます。正しい食事を摂ることは大切ですが、食事だけに気を配っていても、運動をしない人は健康を手にすることはできません。
 とは言え、度を超した激しい運動は、むしろ健康にとってマイナスです。運動は、心と体を健やかに保つためにするものです。重要なのは「適度な運動」を続けることです。少し負荷がかかるくらいの運動を取り入れれば、健康を増進し、老化を遅らせることができます。
 ところがオリンピック選手やプロスポーツ選手は、1日10時間を超える練習を続けたり、肉体の限界まで自分を追い込むといった、過酷な運動をしています。そのため怪我をしていない人の方が稀で、中には治療を受けながらトレーニングに励んだり、痛み止めの注射を打って試合に臨むような選手もいます。体を壊すようなトレーニングは、明らかに間違いです。
 「若い時期に激しい運動をしてきた選手の寿命は短い」という研究報告もありますから、そうした選手を見るたびに私たちは、ついつい彼らの将来を案じてしまいます。

 今回のオリンピックでは、開幕前にロシアが国家ぐるみのドーピングをしていたことが発覚し、世界中に衝撃を与えました。選手の健康や将来よりも、オリンピックを国威を高める道具として利用し、一つでも多くメダルを獲得しようとする“勝利至上主義”に陥っている実態が浮き彫りにされました。
 私たちは、こうした健康を無視したスポーツのあり方は正しくないと考えています。選手の中には、厳しい訓練に耐え抜くことで、強い精神力を身につけ、成長する人もいるでしょう。また、選手たちの鍛え抜かれた技が、人々に感動や勇気を与えることも事実です。

 しかし、スポーツは体を壊してまでやるものではありません。ましてや、国家や人間のエゴのために利用すべきものではないのです。私たちは人間の“真の健康”を考えると、そうしたプロスポーツやオリンピックのあり方を手放しに称賛することはできません。人類の霊性が進歩するにともない、現在のスポーツのあり方も徐々に変わっていくようになると思っています。

 リオ五輪・パラリンピックの開会式と閉会式の演出は、華々しく見事なものでした。しかし、世界に目を向けると難民や貧困者があふれ、命をつなぐ食べ物すら得られずに餓死している人が大勢いるのです。そうした人々のことを思うと、巨額な資金を投じて行うオリンピック・パラリンピックにどれほどの価値があるのか、疑問を抱かずにはいられません。

 2020年の東京五輪に向けてカウントダウンが始まり、東京五輪では金メダル数を世界第3位(今回は第6位)にするという高い目標が掲げられています。しかし私たちは、金メダルの数を誇るような国ではなく、“健全なスポーツ国家”を目指すべきではないかと考えます。すべての日本人が、健康のために日常的にスポーツを楽しみ、豊かな人間性を育むことができる国家になっていってほしいと願っています。