最高の若返りは骨にあった

 皆さんは“骨”と言うと、何を想像されるでしょうか。理科室にあった骸骨を思い描く方、また健康に関心のある方なら骨粗鬆症を思い浮かべるのではないかと思います。骨は私たちの肉体を支えているだけでなく、人体の若さを生み出している臓器であることが、最新の研究によって明らかになってきました。
 今年1月、そうした内容がNHKスペシャル「人体 神秘のネットワーク」の第3集『骨が出す! 最高の若返り物質』で紹介されました。皆さんの中にも、ご覧になった方がいらっしゃるのではないでしょうか。人体の神秘を垣間見る内容でしたので、今回はこの番組を簡単にご紹介したいと思います。

 人間の骨の数はおよそ200個。骨で怖いのは骨折で、骨量が低下すると骨粗鬆症になり、ちょっとした躓きでも骨折しかねません。最新の研究結果から、骨量が下がると若さを生み出すメッセージ物質が出なくなり、全身の老化が急速に進んでしまう可能性があることが分かってきました。そのいい例が、高齢者の場合です。骨折をきっかけに寝たきりになり、一気に認知症が進んでしまうことはよくあります。
 骨の中は隙間だらけですが、その中にたくさんの細胞があり、その細胞から出ている特別な物質がメッセージとして全身に届けられます。そのメッセージ物質の1つが“オステオカイシン”です。

 “オステオカイシン” は、「記憶力をアップせよ!」というメッセージを届けます。そのメカニズムは、骨からメッセージを持ったオステオカイシンが出ると血管を通して脳に運ばれ、記憶を司る“海馬”に到達。海馬がメッセージを受け取ると、脳が頑張って記憶しようと働きます。まだマウスでの実験段階ですが、オステオカイシンを発見したアメリカ・コロンビア大学の“ジェラール・カーセンティー”教授は、「骨が記憶力までコントロールしていることは、非常に驚きだった」と述べています。
 また、“オステオカイシン”が筋肉に到達すると「筋力をアップせよ!」というメッセージを発し、男性の精巣に到達すると「精力をアップせよ!」という若返りのメッセージを発して精子を増加させていることが明らかになりました。

 驚いたことに、骨からは「免疫力をアップせよ!」というメッセージ物質“オステオポンチン”が出ていることも判明。老化のメカニズムについて研究しているドイツ・ウルム大学の “ハームット・ガイガー”教授によると、オステオポンチンを与えたマウスと与えないマウスを5か月間追跡すると、オステオポンチンを与えたマウスの免疫細胞の量が与えないマウスより2倍近く増加したとのこと。これにより、骨が出すオステオポンチンが免疫細胞のもとになる細胞に届くと新しい免疫細胞の量が増え、身体全体の免疫力が根本からアップすることが分かりました。

 これには、本当にビックリです。骨には、単に身体を支えるというだけでなく、全身にさまざまなメッセージ物質を送り若さを生み出すという重要な役目があったのです。ということは、骨が弱くなるとメッセージ物質が減少して記憶力や筋力が低下するだけでなく、免疫力も低下して老化が進み健康レベルを下げてしまうことになります。

 では、骨を強くするにはどのようにすればよいのでしょうか。大半の人は、カルシウムの摂取を考えますが、それだけでは骨を強くすることはできません。実は、骨自身が骨を強化するメッセージ物質を出しているのです。

 骨は肉体を長期間支えるために、毎日のように骨をつくっては壊すという作業を繰り返し、強さやしなやかさを維持しています。なんと、3年~5年で人体のすべての骨が入れ替わっているそうです。破骨細胞が骨を壊し、骨芽細胞が骨をつくっています。この時、骨を一定の量に保つためにメッセージ物質“スクレロスチン”が働きます。“スクレロスチン”は、「骨をつくるのをやめよう!」というメッセージを出し、体内の骨の量をコントロールしています。スクレロスチンが少なければ骨は増え、反対に多すぎると骨はスカスカになってしまいます。

 そうしたアクセルとブレーキのメッセージは、骨の内部にある“骨細胞”から出ています。骨細胞の大きさは0.02mm、全身で数100億個あります。この骨細胞が「骨をつくろう!」「骨を壊そう!」という命令を出していて、それを出すきっかけとなるのが骨に加わる“衝撃”です。骨細胞が衝撃を感知すると、ブレーキ役のスクレロスチンを減らし、「骨をつくろう!」というメッセージを発して骨芽細胞の数を増やします。
 実は、若さを保つメッセージ物質“オステオカイシン”と“オステオポンチン”も、この骨芽細胞から出ています。つまり、骨に衝撃を加えることで骨芽細胞が増え、記憶力・筋力・精力・免疫力アップといった若返りのメッセージ物質が全身に送られ、若さを保つことができるということです。

 これを図に表すと次のようになります。

 このように、運動や活動によって骨の強度が増し、メッセージ物質が全身に届けられて若返ることができます。その反対に、運動や活動をやめてしまうと、骨はもはや若さを保つ必要がないと判断してメッセージ物質を止めてしまい、その結果、老化が進むことになります。現代では、1日の大半を座って生活している人が多く、知らないうちに若さを失っているというわけです。

 運動と骨量の関係について研究しているアメリカ・ミズーリ大学の“パメラ ・ヒントン”博士の調査によると、骨量の低い人が骨に衝撃を与えるジャンプ運動を1日30分、週3回を1年間続けた結果、19人中18人の骨量が増加し、ブレーキ役のスクレロスチンの量が減少しました。これによって、骨の強化には、骨に衝撃を加えるような運動や活動が重要であることが明らかになりました。

 若さを維持するには、やはり“運動”は欠かせません。特に骨に衝撃を与えるような運動、ウォーキングやジョギング・階段の上り下り・ジャンプ運動などが勧められます。なかでも登山は、最適な若返り運動と言えます。

 番組の最後に、メッセージ物質を発見した“カーセンティー”教授は、「骨は私たちの活動状態を見張り、若さを保つ判断をする、いわば“人体の若さの門番”なのです」と述べています。骨が全身にさまざまなメッセージを発信している立派な臓器だったことに、本当に驚きました。私たちは、健康のための4つの柱   「健全な心・正しい食生活・適度な運動・十分な休養」を提唱していますが、この番組を見て、“運動”の重要性を再確認しました。

 こうした人体のメカニズムが明らかになるたびに、私たちは「人間の肉体は、なんて精妙にできているのだろう!」と感嘆します。そして、人間を創造した神の偉大さを実感し― 「私たち人間は、神から与えられたこの肉体を最大限に活かして、人生を全うする責任がある」と改めて思います。

 皆さんも、若さと健康を維持するために、適度な運動を心がけてください。