本当は怖い糖質制限ダイエット

 ダイエットと言えば、真っ先に思い浮かぶのは“糖質制限ダイエット(炭水化物抜きダイエット)”、「ご飯は太るから食べないようにしている」という人が多いのではないでしょうか。そうした中、先日、訃報が飛び込んできました。糖質制限ダイエットの第一人者として知られている“桐山秀樹”氏の突然の死。関係者は「死因は心不全であり、糖質制限とは関係ない」としていますが、糖質制限が原因の心不全ではないかとの疑いの声が上がっています。
 桐山氏は、2010年から糖尿病を克服するために糖質制限ダイエットを開始し、3週間で20kgの減量に成功。以後、糖質制限ダイエットを実践していました。自身の体験から数々の著書を出版し、テレビでも取り上げられるなど、多くの人に影響を与えてきました。桐山氏の訃報に接して、「糖質制限ダイエットは、本当に身体に悪影響はないだろうか?」と不安を抱いている方も多いのではないかと思います。

そこで今回は、この“糖質制限ダイエット”の危険性と、私たちがお勧めしている“新・伝統食”について少し述べてみたいと思います。

 先進国にとって肥満は深刻な問題、日本でもさまざまなダイエット法が説かれています。その中で、最も短期間に痩せられると言われているのが“糖質制限ダイエット”です。一般的には、米やパン・麺類・芋などの炭水化物や、砂糖を使った菓子類などの糖質を含むものは一切食べず、肉などのタンパク質や野菜はいくら食べてもいいというもの。 
 しかし、この糖質制限ダイエットについては専門家の間でも賛否両論があり、「死亡率が上昇する」とか「心臓病や脳卒中になるリスクが高まる」といった指摘もあります。その背景には、糖質制限食と病気の関連性を示す研究結果が世界中から報告されているという実情があるからです。

 2012年、米国のハーバード大学が「長期間の糖質制限食は、心筋梗塞や脳卒中の発症率を高める」と発表。研究者たちは、スウェーデンの30~49歳の女性約4万4000人を対象に、食生活と心筋梗塞や脳卒中などとの関連性について、約16年間追跡調査を行いました。その結果、「低炭水化物・高タンパク質」のグループは、そうでないグループに比べて心筋梗塞や脳卒中のリスクが最大1.6倍に高まることが明らかになりました。
 2013年、日本でも「糖質制限食を5年以上続けると死亡率が高まる」との研究結果が報告されています(*国立国際医療研究センター病院 糖尿病内分泌代謝科 能登洋医長の研究)。30歳以上の約27万人を対象に5~26年間追跡調査をした結果、糖質を1日の総摂取エネルギーの30~40%にした低糖質グループは、60~70%にした高糖質グループに比べて死亡率が31%もアップすることが判明。

 また、アメリカ国立衛生研究所が行った1万人を対象にした研究でも、厳格な糖質制限を行って血糖値を下げたグループは、標準レベルの血糖コントロールを行ったグループに比べて死亡率が21%高かったことが分かりました。
 こうした研究結果を見ると、長期の糖質制限食が身体に悪影響を及ぼすことは明らか、桐山氏の死因も糖質制限によるものではないかとの疑いは拭えません。いずれにしても桐山氏の死は、「糖質制限ダイエットでは健康を手にすることはできない。正しいダイエット法ではない」ということを示しているように思います。

 健康番組を見ていると医師や栄養士はよく、「健康になるためには、またダイエットには“バランスのとれた食事”が大切である」 と言います。バランスのとれた食事とは、栄養学的条件をすべてクリアした食事のことですが、では「具体的にどんな食事?」と聞かれると、首をかしげてしまう人が多いのではないでしょうか。
 “バランスのとれた食事”とは、適量の炭水化物・脂肪・タンパク質を基本とし、ビタミンやミネラルなどの微量栄養素・食物繊維・ファイトケミカル(植物性栄養素)を十分に含み、オメガ3とオメガ6脂肪酸の摂取比率が適正で、抗酸化栄養素・解毒栄養素・酵素をたっぷり供給できる食事のことを言います。とは言え、これらをすべてクリアしようと思うととても難しく、何を食べたらいいのか悩んでしまいます。

 そこで私たちが注目したのが、かつて日本人が摂っていた“伝統食”。世界が認めた伝統的な日本食は、まさに“バランスのとれた食事”と言えます。ホリスティック栄養学では、この伝統食に最新の栄養学の知識を応用して、さらにレベルアップした“新・伝統食”を提唱しています。

 以前、“スタッフだより”で「健康のための4つの条件」と「食事改善の10のポイント」をお知らせしましたので、ここではメニューづくりの決め手となる「3つのルール」をご紹介いたします。

 伝統的な食事では、主食と副食の区別がはっきりしています。日本人の主食は何と言ってもお米。パンや麺類は食べ続けると飽きてしまいますが、お米は毎日食べても飽きません。主食の質を高めるためには、真っ白いお米ではなく、精製度の低い茶色いお米(5分づき米)を摂るようにします。茶色いお米に麦や雑穀を加えれば、栄養的にも味覚的にも「最高の主食」になります。
 さらに、主食の中に豆や種子も含めます。豆や種子類は、本質的には穀類と同じ性質をもった食品だからです。穀類・豆・種子類は、自分たちの種の子孫を残すために必要な栄養素や生命力をすべて備えているため、私たちの生命活動を支えるのに必要な栄養素を豊富に含んでいます。
 食事の土台を固める主食と、それを補う副食の理想的な比率は「6:4」  主食が食事全体の約60%、副食を約40%とします。よく、ご飯よりもおかずの方により多くの栄養があると考え「ご飯はいいから、おかずを食べなさい」と言う人がいますが、それでは栄養バランスのとれた食事にはなりません。パワーのある主食をしっかりと摂ることで、かなりの必須栄養素が補給されます。そして主食で足らないところを副食で補えば、バランスのとれた食事ができ上がります。

 さらに摂取する食品を種類別に分けると、「穀類」「豆・種子類」「野菜・海藻類」「魚貝類」の比率は「5:1:3:1」穀類が全体の約50%、豆・種子類が10%、これらで主食を構成し、副食の30%は野菜・海藻類、残りの10%が魚貝類(動物性食品)という比率になります。

 日本人は、米や野菜の栽培に適した風土の中で“伝統食”を築いてきました。そこでは植物性食品と動物性食品の摂取比率が、ほぼ「9:1」となっています。皆さんの中には、動物性食品の比率の少なさに驚いた方もいらっしゃるのではないかと思いますが、人間はもともと植物性食品を摂取するようにつくられており、それは歯の構成を見れば一目瞭然です。肉食中心の食生活をするようになった現代人は、多くの病気を招いています。
 メニューづくりの決め手となる「3つのルール」を図示すると、次のようになります。

 このように“バランスのとれた食事”には、“お米”は欠かせません。おかずをあれこれ考えなくても、主食でしっかりと必須栄養素を固めることができれば、あとは副食として汁物と少しのおかずがあれば十分です。
 ホリスティック栄養学で勧める“新・伝統食”は、桐山氏が提唱していた糖質制限ダイエットとは正反対の食事です。糖質制限ダイエットでは、とうてい健康は保てません。桐山氏が減量だけでなく、もっと栄養面に気をつけていれば早すぎる死を防げたのではないか……、ついついそう思ってしまいます。
 私たちは、一人でも多くの方にホリスティック健康学・ホリスティック栄養学を知っていただきたいと願っています。ヘルシーでおいしい食事によって、皆さんと一緒に“健康寿命”を延ばしていきたいと思っています。

 先日、サンケイ新聞にとても興味深い記事が載っていました。2014年に発表された研究(マウスでの実験)によると、「父親が乱れた食生活をしていると、生まれた子供にもそれが伝わり、生活習慣病を発症しやすくなる」とのこと。母親の食生活が子供に影響することはこれまでも知られていましたが、父親の食生活の乱れも影響する可能性があるとの報告に、さらに食生活の重要性を痛感しました。
 これから子供をつくろうと考えている人、また結婚を控えている人、子供の父親になる方の食生活は大丈夫でしょうか……。