日本は世界一の残飯大国

 先日、スタッフ全員でNHKの番組  「BS世界のドキュメンタリー ・ 消費社会はどこへ 食品廃棄物は減らせるか?」 を見ました。この番組は2010年にドイツで制作され、昨年7月に放送されたものですが、視聴者のリクエストに応えた 「シリーズ もう一度見たいドキュメンタリー」 の中で再放送されました。皆さんの中にもご覧になった方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 番組は 「国連食糧農業機関(FAO)の推定によると、世界の食料の半分が捨てられています。しかも食卓に上る前に……」 という衝撃的なナレーションで始まり、「それは誰の責任でしょうか?」 「誰がその代償を払っているのでしょうか?」 と問いかけています。そして、大型スーパーの店員が賞味期限の迫った商品を次から次へと棚から撤去し、廃棄する様子を映し出しています。
  こうした食品廃棄は、日本を含む先進諸国では当たり前のように行われています。今回は、まだ食べられるのに捨てられている大量の “食品ロス” について、少し取り上げてみたいと思います。

  “食品ロス” には、「食品事業者」 から出る規格外品・賞味期限切れ食品・残り物などと、「家庭」 から出る調理くず ・ 食べ残し ・ 手つかずの食品などがあります。また、市場の規格に合わない農作物などがそのまま放置され、捨てられることもあります。
  “食品ロス” と言うと、多くの人はスーパーやコンビニ、飲食店などの食品事業者から発生するものと思いがちですが、実は全体の半分近くが家庭から出ているというのですから、ちょっと驚きです。

 内閣府が運営する 「政府広報オンライン」 によると、日本国内における年間の食品廃棄量は、食料消費量全体の2割にあたる約1,800万トン。このうち “食品ロス” は推計で500万トン~800万トンと言われています。つまり、食品廃棄量のおよそ3分の1は食品ロスとして無駄に捨てられているわけです。(*食品廃棄量の3分の2は、野菜くずや果物の皮、エビ・カニの殻などといった食べられない食品くずが占めています。)

 食品ロスの量はコメの年間収穫量に匹敵し、日本人1人当たりに換算すると、毎日おにぎり約1~2個分を捨てていることになるのだとか。しかも、飢餓に苦しむ途上国の人たちに向けて世界中から寄せられる “食料援助量” (平成23年で年間390万トン) を、はるかに上回っているというのですから、日本人がいかにもったいないことをしているか一目瞭然です。

 1人当たりの食品廃棄量を見ると、あの消費大国アメリカよりも日本の方が多く、その量は何とアメリカ人の約1.45倍 (アメリカ105㎏ 日本152㎏) にも上り、“世界一” とも言われています。とても褒められた話ではありません。これでは “残飯大国” と言われても仕方がありません。

 “食品ロス” を生み出している要因の一つに、“賞味期限” の表示が挙げられます。(“賞味期限” の表記は、“消費期限” とともに2003年から義務付けられています。)
  食品業界には1990年代に始まった “3分の1ルール” という慣習があり、メーカーや卸業者は、製造日から賞味期限までの最初の3分の1の期間内に小売店に納品することが求められています。納品期限が過ぎたものは、賞味期限が残っていてもメーカーに返品され廃棄されることになります。それが “食品ロス” を生み出す大きな要因となっていることから、最近では賞味期限を見直す動きが広がってきています。

 一方、消費者にとっても “賞味期限” の表示によって、食品に対する意識が変わりました。以前はさほど気にもしていなかった人たちも、今ではほとんどの人が少しでも新しいものを求めるようになっています。

 番組では、多くの消費者が “賞味期限” と “消費期限” の違いを理解していないことを指摘しています。ちなみに、“賞味期限” とは 「比較的長持ちする加工食品がおいしく食べられる期間」 のことを言い、その期日を過ぎたからといってすぐに健康に害を与えるわけではありません。一方、“消費期限” とは 「刺身や弁当などの傷みやすい商品に表示される、安全に食べられる期限」 のことを言い、製造日からおおむね5日以内を指します。消費者の多くがこれを賞味期限と混同して、表記してある日付が1日でも過ぎると捨ててしまいます。

 賞味期限は本来、消費者になるべく新鮮なうちにおいしく食べてほしいという目的で定められたものです。しかしそれが消費者にとっては 「食べ物を捨てる罪悪感を和らげてくれるもの。世界には餓死する子供がいるのに、捨てる言い訳を与えてくれるもの」となってしまったと、番組は述べています。

 考えてみると、確かにその通りだと思います。私たちの子供の頃には賞味期限の表示などありませんでした。「食べ物を粗末にすると目がつぶれる」 と、当たり前のように親から言われて育ちました。誰もが「もったいない」 と言っては残さず食べ、食べ物を捨てることに罪悪感を持っていました。ところが今ではそうした言葉も聞かれなくなり、賞味期限が切れれば、まるで毒でも入っているかのように潔く捨ててしまう人が増えています。豊かさと引き換えに、「何不自由なく食べられることに感謝して、残さずいただく」 という日本人の美徳とも言うべき心が失われつつあります。

 “食品ロス” を減らすための取り組みに、“フードバンク” と呼ばれる活動があります。これは、まだ食べられるのに廃棄されてしまう食品を困っている施設や人々に届ける社会福祉活動です。こうした活動は1960年代にアメリカで始まり、国や州の保護によって広く社会に浸透しています。
  日本では、2000年にNPO法人「セカンドハーベスト・ジャパン」が活動を開始し、現在30以上の団体がこうした活動に携わっています。企業から寄付してもらった期限切れ間近の食品や規格外品を、福祉施設やDV被害者のためのシェルター、路上生活者に無償で提供しています。全国各地に活動の輪が広がり、協力する企業も増えています。

 近年、アメリカでは中間層から貧困層に転落する人が急増し、フードバンクへの申し込みが殺到したため、多くの人が順番待ちの状態だとか。日本でも少しずつ格差社会が広がり、貧困者の増加が問題視されている中で、こうした活動がますます重要視されていくのではないでしょうか。日本でもアメリカのように行政の援助によって、困窮者のもとに食料品が届けられるシステムが一日も早くでき上がることを願っています。

 “食品ロス” について考えるとき、飢餓で苦しんでいる途上国の人々を思わずにはいられません。平成24年10月現在、世界の飢餓人口は8億7千万人。アフリカでは4人に1人が飢えに苦しんでいます。世界全体の死亡原因の1位が 「ガン」 でも 「心臓病」 でもなく、「飢え」 というのですから、“悲劇” としか言いようがありません。多くの人は、飢餓の原因を単に食べ物が足りないからとか、子供をたくさん産んでいるから、働く気がないからと考えていますが、そうではありません。

 世界では毎年、22~23億トンもの穀物が生産されています。もしこれが世界中の70億人に平等に分配されれば、1人当たり年間320kg (2010年 農林水産省) 以上食べられる計算になります。日本人が食べている穀物は、1人当たり年間160kg (2008年 厚生労働省) と言われていますから、本当はすべての人たちが十分に食べられるだけの食糧が生産されているわけです。しかし現実には、途上国には届いていません。その一番の原因は、先進国の人たちの “肉食” にあります。全穀物の6割が牛や豚や鶏などの家畜のえさに回されているからです。全世界の2割足らずの先進国の人々が肉を食べることで穀物の半分以上を消費し、間接的に貧しい人たちを飢えさせているのです。日本も例外ではありません。

 しかも、日本は輸入大国です。食料の6割を海外に頼らざるを得ないのに、大量の “食品ロス”を出しているのです。食べ物がなくて苦しんでいる人々がいる一方で、罪悪感もなしに食品を捨てているのですから、とても道理に合っているとは言えません。もし、日本人がしているこうした行為を、飢餓に苦しんでいるアフリカやインドの人たちが見たらどう思うでしょうか。まだ食べられる食料を捨てることは、世界の貧しい人たちへの実に無残で残虐な行為と言えるのではないでしょうか。

 番組では最後に  「消費者は賢く食べ、生産者 ・ 卸業者 ・ 小売業者は責任を持って売る。行政は廃棄物に罰金を課すなどの意識改革を厳しく促すこと」 を提唱しています。

 私たちも “食品ロス” を減らすためには、行政や事業者、消費者一人一人が 「減らそう」 という意識がなければならないと思っていますが、もっと根本的な問題があると考えています。飢餓の問題と同様に、人間のエゴや経済中心・物欲中心の考え方が変わらないかぎり、「食品ロスの問題」 も解決されないのではないでしょうか……。