富士登山に提案があります

 7月1日、今年も富士登山のシーズン開幕を告げる「富士山お山開き」の行事が行われ、富士山本宮浅間大社・村山浅間神社・五合目登山口などで多彩な催しが繰り広げられました。
 天空に浮かぶようにそびえ立つ美しい富士山は、日本の象徴として今も昔も人々を魅了しています。また、歌・絵画・写真などの題材となって日本人の生活・文化に深く関わっています。富士山が大好きという人たちの中には、「富士山は登るものではなく、遠くから眺めるもの」と言う人がいますが、あの優美な富士山を目にしたなら、誰でも「一度は登ってみたい!」と思うのではないでしょうか。
 私たちにとっても富士山は “あこがれの山” の一つです。2年前の9月には、富士山に一度も登ったことのないスタッフ数人がついに登頂を果たし、晴れて全員が富士登山経験者となりました。高山病に悩まされながら、やっとの思いで頂上にたどり着いたときの嬉しさと安堵の気持ちは、今も忘れられません。スタッフの一人が「富士山に登ることができて夢のよう。実際に登ったことで、富士山がずっと身近になった」と話していました。
 私たちはどの山に登っても必ず「富士山はどこ?」と探し、見つけては子供のように歓声を上げています。やはり富士山は“日本一の山”です!

 昔から富士山には多くの人が登っていますが、ここ数年、登山者が飛躍的に増えています。平成17年に20万人程度だった登山者が、平成20年には30万人を超えています。昨年は、7月・8月の2ヶ月だけで過去最高の約32万1千人に達しました。単純に計算すると、1日に5350人もの人が登ったことになります。3000メートルを越す山での、この数字は実に驚異的な多さです。毎年8月のお盆休みの頃には、5合目から頂上に向かう登山者の列が “蟻の行列” さながらです。
 ここまで大勢の登山客が集まるのには、登山ブームに加え、旅行会社の“富士山ツアー”が多くなったことが挙げられます。ツアーならば添乗員(ガイド)が一緒に登るので、富士登山は初めてという人でも安心感があることと、8合目の山小屋で宿泊できることが人気の理由のようです。ツアー客の3割は外国人登山者というのですから、富士山人気は国際的にもうなぎ上りといったところです。

 山梨・静岡の両県では、20年前から富士山を“世界遺産(自然遺産)”に登録するために、合同会議を開いて少しずつ準備を進めてきました。しかし、実際には「大量の不法投棄のゴミ」や「トイレ不足」「駐車場不足」「不法進入車」などの多くの問題があり、登録には至っていません。
 そこで3年前に“自然遺産”から“文化遺産”登録に方向を変え、富士山にまつわる信仰や浮世絵などの“文化と歴史”に焦点をしぼった活動を展開してきました。小笠原諸島が自然遺産に、平泉が文化遺産に登録されたことではずみがつき、先日両県の代表が文化庁に「富士山推薦案」を提出し、それが了承されたというニュースが報じられました。文化庁は平成25年の登録を目指す手続きに入る方針だということですが、問題が山積しているだけに、まだまだ道のりは遠いようです。

 さまざまある問題の中で、私たちが真っ先に解決してほしいと思うのは「トイレの問題」です。女性登山者にとって、トイレの有無は大問題です。
 数年前まで富士山の山小屋のトイレは、し尿やトイレットペーパーが山肌を汚し、悪臭を放つなど評判がよくありませんでした。しかし、世界遺産登録を目標とする現在は、すべての山小屋に“バイオ式・燃焼式・カキ殻式”といった環境に優しいトイレが設置されました。とは言うものの、現実は登山者の割にトイレの数が少なく、不便さや汚さは解消されていません。
 トイレの維持管理には多額のお金がかかるため、トイレ使用料は有料ですが、払わない人が多いのが実情だとか。そのうえ、本来は持ち帰るべきゴミまで平気でトイレに捨てる人が多くいて、管理組合はそうしたモラルに欠ける登山者に頭を抱えているそうです。
 また9月に入ると、6合目より上の山小屋はすべて閉じてしまうため、いっさいトイレを使うことができなくなります。頂を往復するのに8~9時間かかりますから、その間トイレが使えないのは、女性にとっては本当に困ります。私たちが富士山に登ったときも、やむをえず山小屋の陰に廻ってみると「びっくり仰天!」  目を覆いたくなるような光景が飛び込んできました。至るところに糞尿にまみれたティッシュペーパーが散乱していて、足の踏み場もないあり様に唖然としてしまいました。ピーク時の混雑を避け9月にしたのですが、まだまだかなり登山者がいて「トイレ問題」の深刻さを痛感しました。

 富士山は日本人の心に、単に“日本一高く美しい山”としてだけでなく、特別な“神聖なる山”として存在しています。私たちは、富士山が世界遺産に登録されるか否かについては、どちらでもいいと考えています。ただ純粋に山を愛する者として、せっかくの富士山の美しさが「トイレの問題」で損なわれている現状を、本当に悲しく残念に思っています。
 そこでこの難問を解決するためには、「登山者から入山料を徴収する」のが一番いい方法ではないかと考え、提案します。“入山料”を徴収して、そのお金をトイレの増設・清掃・管理に当てれば、自然環境を守ることができ、富士登山がもっと快適なものになるに違いありません。入山料の徴収制をシステム化することで財源が確保され、トイレの問題だけでなく、さまざまな問題の解決にもつながっていくのではないかと思います。
 地元の観光業者の中には、「入山料を取ることで登山者が減るのではないか?」と心配している人がいるようですが、今のままでは富士山の自然環境を維持するどころか、さらなる悪化を招くことは必至です。トイレの問題一つ解決できない現状で、はたして本当に文化遺産として認められるのでしょうか……。
 一口に“入山料徴収”といっても、複雑な事情がたくさんあり、簡単には行かないと思いますが、美しい富士山の自然環境を守るため、多くの登山者のために「一日も早く問題を解決してほしい!」と願うばかりです。

 入山料について言えば、私たちは以前から、富士山に限らず大勢の登山者が集まるような山では、それを徴収するのがよいと考えてきました。山を守るため(山小屋の維持・トイレや登山道の整備など)には、たいへんな労力とお金がかかります。入山料をそうした諸々の費用にあて、恵まれた日本の自然を、そのまま後世にまで残してほしいと思っています。ちょっとしたレジャー施設でも“入園料”は何千円もするのですから、大自然をたっぷりと満喫できる登山で“入山料”を払うのは、当然のことではないでしょうか。「登山には入山料が付きもの」  そんな動きが生まれることを願っています。

 登山にあたっては、山の天気がとても気になります。夏山シーズン到来で、私たちも「今度はどこの山に登ろうか」と、あれこれプランを練っているところです。ですから最近は山の天気が気になり、新聞の「山の天気」欄を見ることが多くなりました。
 先日、スタッフの一人が富士山の天気予報に目を留め、茶目っ気たっぷりに読んでくれました。「西の風やや強く晴 初め曇りか霧 一時雨か雷雨」  1日のうちに“晴・雨・風・霧・曇・雷雨”とお天気用語が勢ぞろい。「これだけ揃えば、予報がはずれたと非難されることはないわね」と一同大笑いしました。
 とは言え、山の天気はそれだけめまぐるしく変わる、ということでもあります。富士山閉山まで1ヶ月をきってしまいましたが、もし皆さんの中に“富士登山”を計画している方がいらっしゃいましたら、体調管理はもちろんのこと、念入りに下調べをし、どんな天候にも対処できるよう万全な装備でおでかけください。