肉を食べないから骨折する?

 4月28日・NHK“ためしてガッテン”で、『まさかわたしが? 急増する新型栄養失調の恐怖』というタイトルの番組が放送されました。皆さんは、ご覧になりましたでしょうか。

 多くの人々はこの番組を観て、やはり「肉食」は大切だと思われたことでしょう。レギュラー出演者の山瀬まみちゃん(自然食愛好家)も番組にすっかり騙され、「粗食より、肉食ですね!」などと言う始末でした。

 今回の“ためしてガッテン”は、飽食の現代においても“低栄養”(栄養失調) になってしまう人が増えているとの、ショッキングな内容から始まりました。

 番組では“低栄養”が原因でかかりやすい病気として、まっさきに「骨折」 を取り上げました。そして、時代遅れの低栄養指標(血液中のアルブミン値/タンパク質の一種)だけを基準として、“低栄養”=“タンパク質不足”と決めつけたのです。その結果、「タンパク質をもっと摂って骨折を防ごう!」→「骨折を防ぐためにもっと肉を食べましょう!」という断片的な  栄養学の知識をこじつけた、とんでもない結論を導き出したのです。

 「骨折」→「低栄養が原因」→「タンパク質不足」→「肉を摂れ」とした独断的筋書きは、ほとんど“騙し”と言っても過言ではありません。人々に栄養学の知識がないのをいいことに、NHKは犯罪的なミスリードをしています。
 番組は、「骨折」の他の要因や「肉食の害」を完全に無視し、「肉を食べないから骨折する」という間違った情報を多くの視聴者に与えてしまいました。

 この番組を観ていた私たちは、数年前に、健康情報をねつ造して有名になったフジテレビの“あるある大事典”を連想しました。NHKは視聴率を稼ぐためか、それともネタ切れのためか、ついに“ねつ造番組”までつくってしまったのかと思いました。

 今回は、こうしたNHK“ためしてガッテン”のウソを暴くために、その内容を一つ一つ検証していきたいと思います。

 “低栄養” (栄養失調) は、「骨折」の原因の一つであって、これがすべてではありません。
 骨折の要因としては、

①低栄養(栄養失調)  栄養素全体が低いレベルにあるとき、骨密度が低下する。
②運動不足  筋力が低下して、骨密度も低下する。
③老化現象  加齢にともなうホルモンのアンバランスによって、骨密度が低下する。
④生活様式  孤食、偏食、過労、ストレスの多い生活などから、骨密度が低下する。

 このように「骨折」には、さまざまな要因が関係しています。“低栄養”だけを「骨折」の原因としたNHKサイドの結論は、この点で決定的な間違いを犯しています。

 「骨折」に関係する栄養素として、カルシウム・マグネシウム・ビタミンDなどがよく知られています。これは、栄養学上の常識です。“アルブミン”という時代遅れの栄養学の指標が低いからといって、他の重要ミネラルが不足しているとは言えません。「アルブミン低値」=「骨折に関係するミネラル不足」ということにはなりません。番組はここでも大きなミスを犯しています。

 アルブミン不足がタンパク質不足を示しているとしても、タンパク質不足だからといって、どうして肉食をしなければならないのでしょうか。日本には古来より、「豆」・「魚」・「穀物」・「野菜」など、すばらしいタンパク質源がありました。これらの食べものには、良質のタンパク質のほかに、炭水化物やビタミン・ミネラル・食物繊維が豊富で、それらの栄養素が総合的に働いて、体内で有効に使われるようになっています。そのため「肉」を食べなくても、タンパク質不足になるようなことはありません。かつての長寿村の人々は、肉などいっさい食べていませんでした。現代でも肉を食べていなくても、丈夫な骨を保っている人は大勢います。

 番組では、骨折を経験した80歳代の女性が紹介されました。彼女は「魚」は毎日摂っていましたが、「肉」はほとんど食べていませんでした。これを受けてNHKは、彼女が骨折したのは「肉」を食べていなかったのが原因であると、強引に結論づけてしまったのです。

 最新の栄養学では、現代人の多くが動物性タンパク質(肉・乳製品・卵など)の摂り過ぎによって、ガン・脳卒中・心臓病などのさまざまな生活習慣病を招いていることを明らかにしています。肉食をする人は、タンパク質だけは十分に摂っていますが、タンパク質の代謝に関わるビタミンやミネラル(ビタミンB6・亜鉛・マグネシウムなど)の摂取が不足しています。そのためタンパク質の代謝がスムースにいかず、結果的に“タンパク質欠乏症”の状態に陥っている人もいるのです。

 “食の欧米化”にともなって「肉食の害」が叫ばれている今日にあって、番組はそれとは 正反対の「骨折を防ぐために肉を摂れ!」という、時代遅れの危険な情報を多くの人々に与えてしまいました。これは完全にNHKのミスリードです。

 視聴者が番組を鵜呑みにして「肉食」をし、その害が出現したとき、NHKはいったいどのようにして責任をとるつもりなのでしょうか。

 “ためしてガッテン”を検証してみてわかることは、最新の栄養学をまったく理解していないシナリオライターの無知と、その内容を厳しくチェックしようとしないNHKの無責任な体質です。

 私たちは、視聴率稼ぎの低俗な番組のために“受信料”を払っているわけではありません。NHKには、日本を代表するメディアとして品位と良識ある番組をつくり、正しい情報を視聴者に伝えてほしいと願っています。