深刻化している自殺問題について

 先月末、厚生労働省が2017年版の「自殺対策白書」を閣議決定し、公表しました。それによると、昨年の自殺者数は2万1,897人、7年連続で減少しているものの、依然として高い水準となっています。

 今回は、この「自殺対策白書」の内容を少しご紹介して、深刻化している“自殺問題”について述べてみたいと思います。

 自殺対策白書では、昨年の自殺者をさまざまな角度から分析しています。それによると、男性の自殺者が圧倒的に多く、1万5,121人で全体の69.1%を占めています。また、年齢別に見ると40代が最も多く17.1%、次いで50代が16.6%、60歳以上の高齢者が全体の40.4%を占めています。原因・動機別では、第1位が「健康問題」、次いで「経済・生活問題」「家庭問題」「勤務問題」の順となっていますが、これらが複合的に影響しているケースも多いといいます。

 また、2015年の死因を5歳ごとの年齢階級別に分析したところ、15歳から39歳までの5階級で「自殺」が第1位。男性においては10歳から44歳までの7階級で、女性においては15歳から34歳までの4階級で自殺が1位となっています。こうした若い世代の自殺が死因の1位にのぼっているのは、先進国では日本だけだといいますから、驚きです。

 自殺死亡率 (人口10万人当たりの自殺者数) を世界的に見ると、1位はリトアニア(バルト海沿岸の共和国)で30.8人(2015年)、2位は韓国で28.5人(2013年)、3位はスリナム(南米北東部の共和国)で24.2人(2014年)、日本は19.5人(2014年)で6位となっています。これを男女別で見ると、日本の男性は12位、女性においては、なんと3位です。自殺者が3万人を超えていた頃に比べれば随分減少してきましたが、まだまだ深刻な状態といえます。

 先日、厚生労働省が5年ぶりに見直しを進めている「自殺総合対策大綱」についての報告書の骨子を公表しました。政府の目標は、今後10年間で自殺死亡率を3割以上減少させるとのこと。昨年の自殺死亡率が18.5人なのでそれを13人以下に、つまり年間の自殺者を約1万5千人以下にするということです。この目標値は先進国の現在の水準が目安となっています。ちなみに、2014年の米国の自殺率は13.4人でした。

 自殺対策のポイントとして、産後うつが原因の自殺が深刻な状態にあることを受けて妊産婦への支援強化、過労自殺の対策としては長時間労働の是正の強化やパワハラ防止・メンタルヘルス対策、若者への対応としては「SOSの出し方教育」、その他地域の特性を生かした施策の実現などがあげられています。

 こうした自殺者の多さを見ると、「どうして日本は、こんなにも自殺者が増えてしまったのだろうか?」と疑問に思われるのではないでしょうか。

 その原因としてよく言われているのが、経済的困窮や職場環境の厳しさ、個人を取り巻く社会的な負荷の高まりとそれに対する支援不足などです。なかには核家族化や人間関係の希薄化、「死ねば楽になれる」という日本人の宗教的な死生観をあげている人もいます。いずれにしても、現代の日本の社会は、子供のいじめや貧困・老人の孤独・うつ病といった問題が増加するばかりで、「生きづらい社会になった」と感じている方も多いのではないでしょうか。

 私たちは、こうした現象は社会全体が物質中心主義と利己主義に支配されてしまった結果であると考えています。日本の場合、敗戦によってそれ以前の道徳心や道徳的規律が失われ、国家も国民も経済優先・物質中心主義の道をひた走ってきました。そして急速に、「自分さえよければそれでいい」という“利己主義”に進んでしまいました。それまで日本人の心に根づいていた、自分を犠牲にして公(おおやけ)への奉仕を優先する「利他愛の精神」が薄れてしまったのです。

 こうした物質中心主義と利己主義が支配する社会は、人間の心・精神を孤独や絶望・虚しさ・生き甲斐の喪失といった危機的状態に陥らせます。人々は自殺を悪いことと考えず、「少しばかり長く生きていても、苦しみと虚しさが続くだけの人生に意味はない。いずれ死ぬ以上、少し早く死んでも同じだ」と思うようになります。そうしたことが、若者の自殺や高齢者の自殺を増加させてしまったのだと思います。自殺者の増加は、物質中心主義と利己主義に染まってしまった現代社会が生み出した悲劇の一つといえます。

 政府は自殺対策としてさまざまな内容を掲げていますが、私たちは人々の考え方が物質中心から心中心へ、利己愛から利他愛へ変わり、「自殺は悪いことである」との認識が定着しないかぎり、根本的な解決にはならないと考えています。

 皆さんは、もし目の前に「死にたい」と悩んでいる人がいたら、どんな言葉をかけるでしょうか。テレビドラマでは、「生きていればきっといいことがあるから」とか「あなたが死んだら家族がどんなに悲しむか」と言うのが定番ですが、本当にそれで自殺を思いとどまることができるのか、ちょっと疑問です。

 私たちも「自殺は絶対にダメ!」と言いますが、その一番の理由は、自殺をしても苦しみから逃れられるどころか、さらに大きな苦しみを味わうようになるからです。先回の“スタッフだより”で、肉食に反対する理由の一つとして「生命はすべて神のものであり、人間が勝手にそれを奪うことは許されていない」と述べましたが、それは人間の生命においても言えることなのです。多くの人は、「自分の生命だからどうしようが自分の勝手」と思っているかもしれませんが、生命は神から与えられたものであって、自分のものではありません。他人の命を奪う殺人が罪であるように、自殺も神から与えられた尊い命を自ら捨て去る“摂理に反した行為”です。

 以前にも述べましたが、私たちは「人間の人生はこの世だけでなく、死後も永遠に続いていく」と考えています。自殺によって楽になるどころか、反対に摂理に背いたペナルティを受けることになります。“暗闇の中で後悔の念に苛まれる”という苦しみの時を過ごさなければならないのです。

 私たちは、自殺を選んでしまった人の記事を見るたびに、その方が死後、地上で受けた辛い経験以上の苦しみを味わわなければならないことに、本当に心が痛みます。同時に、死後の世界についての知識を知っていたなら、踏みとどまることができたのではないかと、ついつい思ってしまいます。そして、「一人でも多くの人に死や死後の世界についての霊的知識を伝えたい!」との思いが湧いてきます。

 昨年行われた「自殺対策に関する意識調査(*全国で20歳以上の男女3,000人を対象に実施、うち2,019人から回答)」では、これまで自殺したいと思ったことがある人の割合が23.6%、そのうち最近1年以内にそう考えた人が4.5%いました。

 自殺は絶対にダメです。神から与えられた大切な命を、自ら断つようなことをしてはなりません。私たちは、自殺を考えている人が、踏みとどまる力を持ってくださることを心から願っています。

健康長寿の秘訣

 皆さんは、“センテナリアン”という言葉をご存知でしょうか。1世紀(100年)を生き抜いたという意味で、健康長寿を実現させた100歳以上の方を言います。日本では65,692人、世界では45万人いるそうです。今、「どうすれば元気で長生きできるのか」  その秘密を探るために、センテナリアンの調査・研究が世界中で行われています。


  昨年10月、そうした研究の最新結果がNHKスペシャル『あなたもなれる健康長寿 徹底解明100歳の世界』で紹介されました。皆さんの中にも、ご覧になった方がいらっしゃるのではないでしょうか。長寿を可能にする要因として“心の持ち方”にまで踏み込んだ新しい内容でしたので、今回はこの番組について簡単にご紹介したいと思います。

 慶応大学医学部百寿総合研究センターが、高齢者1500人を対象に最大10年間追跡し、体のどの部分が長寿と関係しているのかを調査・分析しました。その結果、唯一“炎症”が寿命と明確な関わりがあることが判明。センテナリアンの血液検査をすると、炎症レベルがきわめて低いことが分かりました。


  炎症には“急性炎症”と“慢性炎症”があり、“急性炎症”はケガをした時に腫れあがるなど、病原菌などから体を守るために起こる一時的な炎症です。一方、“慢性炎症”は誰でも加齢とともに徐々に進む炎症で、急性炎症とは異なり、自覚症状はほとんどありません。

  この慢性炎症のレベルが低い人は寿命が長く、高い人は寿命が短いことが確認されました。こうした傾向は調査したすべての年齢層で一致し、あらゆる人にとって慢性炎症を抑えることが“健康長寿”を実現するためのカギとなることが明らかになりました。

 慢性炎症が起きる仕組みは、次のようなものです。体の細胞が老化すると、その細胞からサイトカインと呼ばれる炎症を引き起こす物質が放出され、周囲の細胞に炎症が広がり、そこから死んだ細胞の断片や老廃物が出て血管に入り、さらなる炎症の引き金となります。本来なら免疫機能の働きによって素早く炎症の要因が取り除かれますが、加齢によって免疫機能が低下すると、それができなくなってしまいます。

 こうした慢性炎症が糖尿病や動脈硬化・肺疾患・心疾患などの原因となり、それによって慢性炎症がさらに進むという悪循環に陥ることになります。

 では、「どうすれば慢性炎症を防ぐことができるのか?」  センテナリアンが多い地域の人々の食事と身体活動についての研究がなされました。食事に関しては、センテナリアンが食べている“地中海食”が慢性炎症を抑える効果があるとし、欧州5か国約600人の高齢者に地中海食を食べ続けてもらい、1年後に血液検査をして炎症レベルがどう変わるかを調査しました。その結果、地中海食を適切に食べた人ほど炎症の数値が低くなることが確かめられました。

 ところが、地中海食をとっていてもあまり効果が見られない国がある、という意外な事実が浮かび上がりました。これまで地中海食はすべての人に効果があると考えられていましたが、そうではなく、食事の効果は人種やライフスタイル・性別など、さまざまな要因によって違ってくることが明らかになりました。それには“腸内細菌”が大きく関わっているのではないかと言われています。 

 地中海沿岸の人々には地中海食がベストであるように、他の地域の人々にとっては、そこで昔から食べ続けてきた食事がベストであるということです。つまり、日本には日本独自の“伝統食”  雑穀・豆・野菜・海藻・魚・発酵食品などの食事   があり、これが長寿を可能にするということです。 

 身体活動については、これまでも言われてきた“負荷のかかる活動”が健康長寿に繋がっていることが判明し、慢性炎症との関係も明らかになりました。センテナリアンの身体機能を調査した結果、心臓や腎機能は低下していても“微小循環”はきわめて優れていることが分かりました。

  “微小循環”とは、全身に張り巡らされている毛細血管の中で起きる細かな血流のことで、細胞に酸素と栄養素を送り込み、たまった老廃物を回収する役割があります。日々の暮らしの中で一定の負荷をかけることで微小循環が活発になり、慢性炎症を起こす原因が取り除かれ、老化のスピードが遅くなるのではないかと考えられています。

 私たちが注目したのは、最新の研究によって“心の持ち方”が慢性炎症の予防には欠かせないことが明らかになったことです。研究によると、人間がストレスを受けたときに働く“CTRA遺伝子群”が、心の満足感と慢性炎症に深く関わっていることが判明。心に満足感を得たときCTRA遺伝子群の働きが弱まり、慢性炎症が抑えられることが分かりました。「生活の中で感じる満足感」といった精神的な感覚が、体の中の炎症反応と関わりがあることが見えてきました。ところが、一口に満足感と言っても、炎症を抑えるのではなく、逆に炎症を進めてしまうような満足感があることが判明しました。

 研究の結果、炎症を抑える満足感は、ボランティア活動や家族を大切にするといった「生きがい型の満足感」  人に尽くす心や社会に貢献する姿勢が慢性炎症を抑え、健康長寿に繋がっていることが分かりました。

 反対に炎症を進める満足感は、食べたいだけ食べたり、好きなだけ買い物をするといった食欲・物欲・性欲・娯楽などの「快楽型の満足感」  こうした自分の欲望を満たすことで得られる満足感は、慢性炎症を進めてしまいます。仕事や食事・買い物といった行動そのものの良し悪しではなく、「自分のためか、それとも周りの人のためか」という動機・心の持ち方によって遺伝子の状態が変わることが明らかになったのです。つまり、長寿の秘訣は、自己中心的な心ではなく“利他的な心・奉仕精神”にあるというわけです。

 私たちが提唱している「ホリスティック健康学」でも、健康には心の要素がきわめて重要であるとしています。これまでも何度か述べてきましたが、健康には4つの柱  「心・食・運動・休養」があり、どの要素も欠かすことができません。なかでも“心の健全さ”は、身体全体の健康状態を大きく左右し、人間を摂理にそった最も調和のとれた状態にさせます。“健全な心・利他的な心”は神の摂理と一致しているのです。

 これまで「心の健康」と言えば、精神の安定のための瞑想や呼吸法に注目が集まってきました。しかし最新の研究によって、そうしたものによって得られる表面的な心の安定ではなく、もっと深いところからの満足感が健康に大きく関わっていることが分かったのです。利己的・自己中心的な満足感ではなく、利他的・奉仕的な満足感が健康長寿の秘訣であることが明らかになりつつあることは、人間の真の健康にとって大きな前進であると言えます。

 私たちも奉仕の思いを持ち続け、これからも人々のために役に立つような歩みをしていきたいと願っています。