健康長寿の秘訣

 皆さんは、“センテナリアン”という言葉をご存知でしょうか。1世紀(100年)を生き抜いたという意味で、健康長寿を実現させた100歳以上の方を言います。日本では65,692人、世界では45万人いるそうです。今、「どうすれば元気で長生きできるのか」  その秘密を探るために、センテナリアンの調査・研究が世界中で行われています。


  昨年10月、そうした研究の最新結果がNHKスペシャル『あなたもなれる健康長寿 徹底解明100歳の世界』で紹介されました。皆さんの中にも、ご覧になった方がいらっしゃるのではないでしょうか。長寿を可能にする要因として“心の持ち方”にまで踏み込んだ新しい内容でしたので、今回はこの番組について簡単にご紹介したいと思います。

 慶応大学医学部百寿総合研究センターが、高齢者1500人を対象に最大10年間追跡し、体のどの部分が長寿と関係しているのかを調査・分析しました。その結果、唯一“炎症”が寿命と明確な関わりがあることが判明。センテナリアンの血液検査をすると、炎症レベルがきわめて低いことが分かりました。


  炎症には“急性炎症”と“慢性炎症”があり、“急性炎症”はケガをした時に腫れあがるなど、病原菌などから体を守るために起こる一時的な炎症です。一方、“慢性炎症”は誰でも加齢とともに徐々に進む炎症で、急性炎症とは異なり、自覚症状はほとんどありません。

  この慢性炎症のレベルが低い人は寿命が長く、高い人は寿命が短いことが確認されました。こうした傾向は調査したすべての年齢層で一致し、あらゆる人にとって慢性炎症を抑えることが“健康長寿”を実現するためのカギとなることが明らかになりました。

 慢性炎症が起きる仕組みは、次のようなものです。体の細胞が老化すると、その細胞からサイトカインと呼ばれる炎症を引き起こす物質が放出され、周囲の細胞に炎症が広がり、そこから死んだ細胞の断片や老廃物が出て血管に入り、さらなる炎症の引き金となります。本来なら免疫機能の働きによって素早く炎症の要因が取り除かれますが、加齢によって免疫機能が低下すると、それができなくなってしまいます。

 こうした慢性炎症が糖尿病や動脈硬化・肺疾患・心疾患などの原因となり、それによって慢性炎症がさらに進むという悪循環に陥ることになります。

 では、「どうすれば慢性炎症を防ぐことができるのか?」  センテナリアンが多い地域の人々の食事と身体活動についての研究がなされました。食事に関しては、センテナリアンが食べている“地中海食”が慢性炎症を抑える効果があるとし、欧州5か国約600人の高齢者に地中海食を食べ続けてもらい、1年後に血液検査をして炎症レベルがどう変わるかを調査しました。その結果、地中海食を適切に食べた人ほど炎症の数値が低くなることが確かめられました。

 ところが、地中海食をとっていてもあまり効果が見られない国がある、という意外な事実が浮かび上がりました。これまで地中海食はすべての人に効果があると考えられていましたが、そうではなく、食事の効果は人種やライフスタイル・性別など、さまざまな要因によって違ってくることが明らかになりました。それには“腸内細菌”が大きく関わっているのではないかと言われています。 

 地中海沿岸の人々には地中海食がベストであるように、他の地域の人々にとっては、そこで昔から食べ続けてきた食事がベストであるということです。つまり、日本には日本独自の“伝統食”  雑穀・豆・野菜・海藻・魚・発酵食品などの食事   があり、これが長寿を可能にするということです。 

 身体活動については、これまでも言われてきた“負荷のかかる活動”が健康長寿に繋がっていることが判明し、慢性炎症との関係も明らかになりました。センテナリアンの身体機能を調査した結果、心臓や腎機能は低下していても“微小循環”はきわめて優れていることが分かりました。

  “微小循環”とは、全身に張り巡らされている毛細血管の中で起きる細かな血流のことで、細胞に酸素と栄養素を送り込み、たまった老廃物を回収する役割があります。日々の暮らしの中で一定の負荷をかけることで微小循環が活発になり、慢性炎症を起こす原因が取り除かれ、老化のスピードが遅くなるのではないかと考えられています。

 私たちが注目したのは、最新の研究によって“心の持ち方”が慢性炎症の予防には欠かせないことが明らかになったことです。研究によると、人間がストレスを受けたときに働く“CTRA遺伝子群”が、心の満足感と慢性炎症に深く関わっていることが判明。心に満足感を得たときCTRA遺伝子群の働きが弱まり、慢性炎症が抑えられることが分かりました。「生活の中で感じる満足感」といった精神的な感覚が、体の中の炎症反応と関わりがあることが見えてきました。ところが、一口に満足感と言っても、炎症を抑えるのではなく、逆に炎症を進めてしまうような満足感があることが判明しました。

 研究の結果、炎症を抑える満足感は、ボランティア活動や家族を大切にするといった「生きがい型の満足感」  人に尽くす心や社会に貢献する姿勢が慢性炎症を抑え、健康長寿に繋がっていることが分かりました。

 反対に炎症を進める満足感は、食べたいだけ食べたり、好きなだけ買い物をするといった食欲・物欲・性欲・娯楽などの「快楽型の満足感」  こうした自分の欲望を満たすことで得られる満足感は、慢性炎症を進めてしまいます。仕事や食事・買い物といった行動そのものの良し悪しではなく、「自分のためか、それとも周りの人のためか」という動機・心の持ち方によって遺伝子の状態が変わることが明らかになったのです。つまり、長寿の秘訣は、自己中心的な心ではなく“利他的な心・奉仕精神”にあるというわけです。

 私たちが提唱している「ホリスティック健康学」でも、健康には心の要素がきわめて重要であるとしています。これまでも何度か述べてきましたが、健康には4つの柱  「心・食・運動・休養」があり、どの要素も欠かすことができません。なかでも“心の健全さ”は、身体全体の健康状態を大きく左右し、人間を摂理にそった最も調和のとれた状態にさせます。“健全な心・利他的な心”は神の摂理と一致しているのです。

 これまで「心の健康」と言えば、精神の安定のための瞑想や呼吸法に注目が集まってきました。しかし最新の研究によって、そうしたものによって得られる表面的な心の安定ではなく、もっと深いところからの満足感が健康に大きく関わっていることが分かったのです。利己的・自己中心的な満足感ではなく、利他的・奉仕的な満足感が健康長寿の秘訣であることが明らかになりつつあることは、人間の真の健康にとって大きな前進であると言えます。

 私たちも奉仕の思いを持ち続け、これからも人々のために役に立つような歩みをしていきたいと願っています。