スマホ脳

 皆さんは『スマホ脳』という本をご存知でしょうか。著者はスウェーデンの精神科医“アンディッシュ・ハンセン”です。前作の『一流の脳』は世界的にベストセラーとなり、この本も日本を含む13か国で翻訳されています。『スマホ脳』には、ここ10年で人々の生活が一気にデジタル化したことによる心身への影響とその理由、そして対策が書かれています。

 私たちもこれまで、スマホ依存・ネット依存の恐ろしさを何度も述べ、人々に注意を促してきました。今回はこの本から、スマホが人間の脳と心に与える影響力について少しご紹介したいと思います。

 皆さんは、1日に何回、スマホを手にされるでしょうか? 朝起きてまずスマホをチェック、夜寝るときは目覚まし代わりにし、手の届く所に置いているという人が多いのではないでしょうか。

 ハンセン氏によると、現代人は1日に2600回以上、平均して10分に1度はスマホを手に取っているそうです。さらに、3人に1人は、夜中にも1回以上はチェックし、4割の人は、1日中スマホがないよりは声が出なくなる方がましだと思っている、というのです。これはスウェーデンの統計ですが、日本でも同じようなことが言えるのではないでしょうか。

 ハンセン氏は、スマホの存在が人間の“脳”に大きく悪影響を及ぼしていると述べています。多くの研究から―「スマホが手元にあるだけで、またマナーモードにしてポケットにいれておくだけでも集中力が奪われ、記憶力や認知能力が低下する」という結果が示されています。スマホを持っていると、ついチェックしたい衝動にかられ、集中力が奪われてしまいます。身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。スマホの存在が、人間の“脳”を弱らせているのです。

 最近、幼い子供たちに対するタブレットを使った学習が注目されています。スウェーデンでは、1歳未満の乳児の4人に1人がインターネットを使い、2歳児は半数以上、7歳児ではほとんどの子供が毎日利用している、というから驚きです。

 多くの人は、タブレット学習は効果があると考えていますが、長年、子供の脳の発達を研究しているある教授によると、小さい子供の場合は、むしろ発達が遅れる可能性があるということです。また、就学前の子供を対象にした研究では、紙とペンを使って書くという運動能力が、文字を読む能力とも深く関わっていることが示されています。さらに小学校の高学年生を対象とした調査でも、紙の書籍の方がタブレット端末での書籍より、本の内容をよく覚えていたという結果が出ています。

 私たちも子供の脳の発達には、鉛筆とノートを使った学習と、紙の本を読むことが欠かせないと考えています。文部科学省は新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、小中学生などにタブレットを配る計画を加速させていますが、長い目で見ると悪影響があるのではないかと思っています。

 スマホは脳だけでなく、心にも大きな影響を及ぼします。驚いたことにスウェーデンでは、10~17歳で精神科医にかかったり、向精神薬をもらったりしたことがある若者の割合が、この10年で2倍になったとのこと。米国でもうつ病と診断された10代の若者が7年で6割も増え、日本でも急増しています。

 ハンセン氏は、その要因としてフェイスブックやツイッターなどのSNSを挙げています。賢く利用している人は問題ありませんが、多くの人がSNSを見ることで精神状態を悪化させています。それは特に女子に多く、フェイスブックやツイッターを見る時間が長いほど自分に自信が持てなくなり、不安や孤独を感じるようになるといいます。

 また複数の研究から、子供や若者が1日2時間を超えてスマホに夢中になっていると、うつ病のリスクが高まることが明らかになっています。スマホに関わる時間が長くなればなるほど睡眠や運動の時間が奪われ、うつ病になるリスクが高まるとのこと。子供だけでなく大人たちも、スマホによって大切な時間と健康が奪われているのです。

 ハンセン氏は、デジタルを駆使した先端のテクノロジーには、一長一短があることを覚えておかなければいけないと述べています。人間がテクノロジーに順応するのではなく、テクノロジーが私たちに順応すべきであると言っています。私たちも、道具は人間の心や生活を豊かにするためのものであって、人間が道具に使われてはいけないと思っています。スマホに依存し、大切な心の成長が妨げられてしまうのなら、スマホを持つべきではないと考えています。

 先日、新型コロナウイルスの感染者が世界全体で1億人を超えたという報道が流れました。多くの人がコロナ禍で外出できず、スマホ依存・ネット依存が加速したものと思います。私たちは、コロナウイルスの感染よりも “スマホ依存”の方が深刻な問題だと考えています。コロナの害は目に見えますが、スマホの害は目に見えない形で世界中に広がっていきます。目に見えないために、大半の人が危機感を感じていません。しかしスマホ依存は、人間の心や脳に悪影響を及ぼし、精神の病を引き起こします。それは単に肉体の病であるコロナ以上に、深刻な問題なのです。

 今、多くの研究によってスマホの危険性が明らかになってきていますが、現実はスマホの使用は拡大しています。私たちは、多くの人々がスマホによる精神疾患に苦しむという“最悪の事態”にまで至らないかぎり、人類は今の状況を変えることはできないだろうと思っています。

 『スマホ脳』の中には、IT企業のトップのエピソードが載っています。アップル社の創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、自分の子供にはアイパッドの使用を厳しく制限していました。ビル・ゲイツ氏も、子供が14歳になるまでスマホを持たせませんでした。また、大流行している「いいね」の機能を開発したフェイスブックの関係者は、「自分たちがその機能を開発したことを後悔している」と述べています。

 私たちは、この本を多くの方に読んでいただきたいと思っています。