スーパー耐性菌

 先日、NHKの番組『BS世界のドキュメンタリー選』で「不死身のスーパー耐性菌 抗生物質が効かない未来」と題して、耐性菌の現状について取り上げていました。それによると、現在ある抗生物質が全く効かない時代がすぐそこまで迫っているとのこと。経済学者の中には、「何の対策もとらなければ、2050年には世界で毎年1000万人が耐性菌によって死亡するだろう」と予測している人がいるほど、将来には深刻な事態が待っていると言うのです。そこで今回は、“耐性菌”について少し述べてみたいと思います。

 抗生物質が効かなくなると言うと、多くの人はその原因として、医師から処方される抗菌薬の過剰摂取を想像されるのではないでしょうか。しかし、微生物を研究している科学者たちは、第一の原因として「家畜への乱用」を挙げています。抗生物質の多くは、人間ではなく、牛や豚や鶏といった家畜や養殖魚などの飼育に使われているのです。

 番組では、アメリカの現状を取り上げていました。2016年、アメリカでは抗生物質全体の80%が家畜の飼料に使用されています。抗生物質の総量は15000t、食肉1㎏あたりに換算すると300㎎に相当するそうです。

 ちなみに、日本でも抗生物質全体の約3分の2は人間以外の動物のために使われ、その量は1703t、1㎏あたりに換算するとアメリカより多いと言われています。日本は畜産物の輸入国ですから、肉や養殖魚を食べることで知らず知らずのうちに相当量の抗生物質を摂っている、ということになります。

 家畜への抗生物質の投与は、病気のためではなく、ほとんどが成長促進のためとなっています。さらに過密した飼育場で起こる病気予防がその用途です。しかもその危険性を誰も気にせず、平気で大量に使っていると言います。微生物学者は、そうした家畜場から“耐性菌”が発生していることを指摘しています。

 微生物学者によると、耐性菌は家畜の腸内で生まれ、糞とともに排出され、土壌や水を介して周囲に広まります。また、糞にたかるハエが運び屋となり、それを通して人から人へどんどん広まっていきます。2008年にはインドで、カルバペネム系抗生物質が効かない“NDM‐1”という耐性菌が発見されました。これは日本でも確認されています。さらに2015年には中国で、“最後の守り”と言われる抗生物質コリスチンに耐性を持つ“MCR‐1”が発見され、1年で5大陸30か国に広まりました。こうした事態を、各国の医師や研究者たちは危機感をもって注視しているとのこと。

 皆さんの中には、「新しい抗生物質を開発すればいいのでは?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、新しい抗生物質は1984年以降、全く開発されていません。これには、私たちも驚きました。その理由は、開発費が回収される見込みが立たないからです。新しい抗生物質をつくるには10年以上の歳月と、最低10億ドルの資金が必要となりますが、それが新しい耐性菌の出現によって5年以内に効かなくなってしまうため、いずれの製薬会社もつくろうとしないのです。

 新しい抗生物質がない以上、耐性菌の拡大を遅らせるしかありません。微生物学者は、「国際社会は、動物に抗生物質を使わないことを決断しなければならない。抗生物質は人間のために取っておくべきである」と強調しています。

 そうした事態を受けて2017年、WHOが畜産農家に対して抗生物質の乱用の中止を勧告しましたが、はたしてどれだけの畜産農家が守っているのでしょうか……。

 微生物学者や経済学者が危惧しているように、数十年後には“スーパー耐性菌”が多く発生し、感染症対策の切り札となるはずの抗生物質が全く効かない事態が引き起こされるようになるかもしれません。そうなったら、今回の新型コロナウイルス災禍より、もっと深刻な状況と言えます。

 耐性菌の問題を見ていくと、“肉食”という人間の間違った食習慣と、動物虐待とも言える不自然な飼育が、耐性菌の出現を招いていることがよく分かります。これも新型コロナウイルスと同様、人間の間違った生き方に対する“警告”と捉えるべきことです。摂理に反した人間の生き方が、こうした苦難を招いているのです。人類は苦難の体験を通して、少しずつ間違った生き方を修正していくようになるものと思います。

 しかし考えてみれば、そもそも人間の身体には外敵から身を守る「免疫システム」が備わっています。免疫システムが正常に働いていれば、抗生物質に頼る必要はありません。医師や研究者たちは、耐性菌によって抗生物質が効かなくなることを一大事と考えていますが、免疫力を高めておけばそれほど恐れる必要はありません。感染症対策において重要なことは、薬剤ではなく、健康レベルを上げて免疫力を高めておくことなのです。免疫力が高ければ、たとえ感染症になっても重症化を防ぐことができるようになります。

 皆さんには、抗生物質に頼ることのないハイレベルの健康を手にしていただきたいと願っています。