減塩しすぎはかえって危険

 8月末、テレビ番組『林修の今でしょ講座』で「今こそ正しく摂るべき塩講座」と題して、塩分摂取について放映されました。“塩”というと、これまで「減塩、減塩!」と騒がれ、健康を意識している人ほど、熱心に取り組んでいるのではないかと思います。しかしその一方で、夏になると決まって、熱中症対策として「水分と一緒に塩分もしっかり摂るように!」と言われます。皆さんの中には「減塩した方がいいのか、それともしなくていいのか?」と、迷っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 そうした疑問に番組が答えてくれるのではと、私たちも期待して観ていました。ところが、出演していた専門家の医師は、“減塩のしすぎが心臓病や脳卒中などを招く”という最新の研究結果を紹介しながら、減塩の是非については、見解をはっきりと示さないまま番組が終了してしまいました。そこで今回は、番組で紹介された研究結果をもう一度ご紹介し、減塩の是非について述べてみたいと思います。

 番組では、2つの研究結果が紹介されました。1つは、2014年にアメリカの著名な医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナルオブメディスン』に発表された論文です。この研究は、17ヶ国の約10万人を対象に約3年半にわたって尿に含まれるナトリウム量を測定し、塩分摂取量と心臓病の発症リスクの関係について調べたものです。その結果、1日約7.5g~15gの食塩を摂取する人たちを基準としたとき、それより多い場合だけでなく、少ない場合にも心血管疾患(心筋梗塞や狭心症)のリスクが高まることが判明。また、心血管疾患のリスクが最も低かったのは、1日の塩分摂取量が11g~13gでした。多量に塩を摂ることと同様に、減塩のしすぎも心臓病のリスクを高めることが明らかとなり、従来の「塩分は減らすほどよい」という説を覆す結果となりました。

 もう1つの研究は、1998年にイギリスの医学雑誌『ランセット』に発表された論文です。この研究は、25~75歳のアメリカに住む約21万人を対象にしたものです。被験者を塩分摂取量に応じて4つのグループに分け、塩分摂取量と病気による死亡率の関係について調べました。その結果、塩分摂取量が最も少ないグループが、心筋梗塞や脳卒中による死亡率が一番高く、塩分摂取量が最も多いグループが、死亡率が一番低かったという驚きの結果となりました。
 また、番組では紹介されませんでしたが、今年、同じ医学雑誌『ランセット』に、血圧と塩分摂取量と心血管疾患との関係についての研究結果が発表されました。それによると、高血圧の人にとって多量の塩分摂取(1日約17.5g以上)が心血管疾患のリスクを高めると同時に、減塩(1日約7.5g以下)もリスクを高めることが判明。また、正常な血圧の人にとって、多量の塩分摂取は心血管疾患のリスクを高めないが、減塩はリスクを高めることも判明しました。これにより、血圧が高い人にとっても正常な人にとっても、減塩のしすぎはかえって危険性を高めることが明らかになりました。
 日本人の1日の塩分摂取量は平均9.9gですから、こうした研究結果と照らし合わせると、何の問題もないどころか、むしろ適量と言えます。「減塩、減塩!」 と神経質になる必要はないのです。ところが、政府が奨励している1日の塩分摂取量は、男性8.0g未満、女性7.0g未満です(2015年版)。来年からさらに引き下げられ、男性7.5g未満、女性6.5g未満になるとのこと。こんなことをしては、かえって心血管疾患や脳卒中のリスクを高めてしまうことになります。これで本当に、国民の健康を守ることができるのでしょうか……。

 昔から塩は、人間にとって不可欠なものであることが分かっていました。人間の体は約60%が水分(体液)でできていて、その中には0.3~0.4%のナトリウム(塩分)が含まれています。ナトリウムは、体の機能の調節や細胞の機能を維持し、筋肉や神経を正常に働かせる役目を担っています。ナトリウムが細胞の内外を移動することで電気信号が発生し、脳から神経を通って体中の細胞や筋肉へ情報が伝達されます。体内で行われている1つ1つの活動に、ナトリウムが大きく関与しているのです。そのため、ナトリウムが欠乏すると心臓の働きに支障が出たり、けいれんや目まい・頭痛・錯乱状態などが起こり、最悪の場合は死に至ってしまいます。健康を維持するために、塩分は欠かせません。研究結果にあるように、減塩をしすぎる方がかえって病気を招いてしまうのです。

 そもそも、人間の体には“ホメオスターシス”という生体維持機能が備わっているため、塩分濃度は常に一定に保たれるようになっています。塩辛いものを食べると喉が渇き、水が飲みたくなるのはそのためです。食事で多量に塩分を摂っても、余分な塩分は尿や汗となって排泄されるようになっています。健康な人が塩分を多く摂ったとしても、大きな問題は生じません。

 塩分摂取については、以前にもスタッフだよりで述べましたが、問題は一般的によく使われている“精製塩(食塩)”にあります。精製塩は、家庭料理に使われる以外に、スーパーなどで売られている加工食品や加工調味料・インスタント食品、コンビニ弁当などにたっぷりと使われています。精製塩には塩化ナトリウムが99%も含まれているため、そうした食品を常時摂っていると、気づかないうちにナトリウム過多になり、身体のミネラルバランスが崩れ、生活習慣病のリスクを高めてしまいます。また、加工食品は味付けが濃いため、そうしたものを取り続けていると味覚が麻痺し、塩気の強い味を好むようになってしまいます。

 それに対して“自然塩”は、ナトリウム以外に多種類のミネラルを含んでいるため、多量に摂ってもミネラルバランスを崩すことはありません。精製塩を自然塩に替え、加工食品やインスタント食品を減らすだけで、塩の過剰摂取の心配など全くなくなります。植物性食品中心の健全な食事にして、自然塩を使うようにすれば味覚も正常になり、健康レベルがアップします。

 人間にとって“塩”は、大切なミネラル源です。医師をはじめ多くの人々は「健康を手にするためには減塩が必要!」と考えていますが、最新の研究から、日本人が普通に摂っている塩分量には何の問題もないことが明らかです。むしろ、減塩する方が健康に害を及ぼしてしまうのです。専門家には、日本人にとって本当にこれ以上の減塩が必要かどうか、明確な答えを示していただきたいと思います。

 先日の台風19号は、想像を超えた記録的な被害を各地にもたらしました。多くの人たちの悲惨な状況を観るたびに、本当に胸が痛みました。被災された方々が、一日も早く安定した生活を取り戻すことができるよう、スタッフ一同、心よりお祈りしております。