塩分摂取と高血圧の関係

 10月になり、秋の訪れにほっとしていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
 今年の夏も暑い日が多く、連日のように熱中症に関するニュースが報じられました。テレビのワイドショーでも、熱中症対策として「こまめな水分と塩分補給」をあげ、塩飴やスポーツドリンクなどのさまざまな予防グッズが紹介されていました。
 熱中症予防には、「水分補給だけでなく、適切な塩分補給も大切」というのが常識ですが、一方では「高血圧の改善には“減塩”が必須」というのも、今や通説となっています。皆さんの中には、「塩分は摂った方がいいのか、それとも減らした方がいいのだろうか?」と、迷っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
 そこで今回は、「塩分摂取と高血圧の関係」について少し述べてみたいと思います。

 “減塩ブーム”はアメリカから始まり、その火付け役となったのは1954年、ダール博士が唱えた「塩分の過剰摂取が高血圧を招く」という説にあります。日本でも、昭和20年代後半から30年代前半にかけて行われた調査で、高血圧や脳卒中患者が多発していた東北地方(日本海側)の人々が、1日20gもの食塩を摂取していたことが分かりました。その後の研究でも、ダール博士の説と同様の結果が得られたことから、1970年代、政府が減塩に取り組む保健政策を開始し、日本で“減塩ブーム”がスタートしました。秋田県や長野県などで減塩運動が盛んに行われたことは、よく知られています。

 日本人の成人の塩分摂取量は、1日平均10.2g、男性11.1g、女性9.4g(*2013年の国民栄養調査)。それに対して政府が奨励している塩分摂取量は、1日に男性8.0g未満、女性7.0g未満(*2015年版日本人の食事摂取基準)で、医師は塩分の摂りすぎに注意を促しています。

 高血圧の人が年々増える中で、「減塩すれば高血圧が治る」という“減塩信仰”が日本中に広まり、多くの家庭が減塩に努めるようになっています。スーパーでは、減塩醤油・減塩味噌・減塩梅干しなど、“減塩”を謳っている食品が大人気です。

 しかし、世間に出回っている多くの減塩食品には、不足した塩のうまみを補うために大量の化学調味料が加えられ、保存料として添加物も使われています。そのため新たな問題を引き起こすことになっています。
 こうした減塩食で高血圧が減ったかというとむしろ増加傾向にあり、最近では、減塩の影響で貧血や冷え症・低体温・便秘症の人が増えているとも言われています。

 最新の塩分摂取と高血圧に関する研究で、これまでの常識を覆す結果が発表されています。1985年、米国人20万人を対象とした生活調査の結果、1日の塩分摂取量が2~13gの人には、塩分摂取と高血圧に相関関係が見られなかったことが判明。また1988年には、ロンドン大学が1万人を対象に行った「インター・ソルト・スタディー(国際塩分調査研究)」の結果でも、1日の塩分摂取量が6~14gの人には、同じことが判明しました。この研究は、世界で初めて「塩分と高血圧の関係」を厳密に測定した大規模な疫学調査と言われ、「塩分摂取と高血圧は関係ない」という見解が発表されました。

 こうした最新の研究から、日本人の1日平均摂取量10.2gは「減塩、減塩!」と騒ぎ立てるような量ではないことが分かります。
 そもそも、人間の体には“ホメオスタシス(恒常性)”という生体維持機能が備わっているため、過剰な塩分は尿や汗となって排泄されるようになっています。食事で多量の塩分を摂取しても、一時的に血中の塩分濃度が高まり血圧は上昇するものの、ホメオスタシスの働きによって塩分濃度は正常値にまで引き下げられます。健康な人が食事で塩分を多く摂ったとしても、大きな問題は生じません。

 “塩”には、“精製塩(食塩)”と“自然塩(天然塩とも言う)”の2種類があることは、皆さんもご存知のことと思います。一般によく出回っているのは“精製塩”  海水からイオン交換膜(石油系)を使って塩化ナトリウムだけを取り出した塩です。原料は自然塩と同じですが、含まれている物質は自然塩とは全く別物の不自然な塩になっています。戦後、この塩化ナトリウム99%の“精製塩”が塩の代用品として多くの家庭で使われるようになりました。そのため、ナトリウムを過剰に摂りすぎて全体のミネラルバランスを崩すことになり、それが生活習慣病を引き起こす原因の一つになっています。

 一方、“自然塩”は海水を天日で乾燥させたり煮詰めたりして作られ、ナトリウム以外にマグネシウムやカリウム・カルシウムなど多種類のミネラルが含まれています。特にナトリウムとマグネシウムがバランスよく含まれているため、過剰に摂ってもミネラルバランスを崩すことはありません。質の良い自然塩は、全身の生理作用を高め、健康の増進に大いに役立ちます。
 私たちは、健康な人が自然塩を摂っているかぎり、過剰摂取による弊害が発生するようなことはないと考えています。調味料として自然塩を使えば、減塩を気にすることなく、体にいい美味しい料理を作ることができます。

 日本の医学界や栄養学会では、いまだに「塩分の過剰摂取が高血圧を招いている」とし、減塩を奨励しています。しかし最新の研究結果から、その見解はほぼ否定されつつあります。高血圧の原因についてはさまざまな理由が考えられますが、現時点では明確な医学的結論は出ていません。

 私たちは、高血圧の最大の原因は塩分の過剰摂取ではなく、“ストレス”と肉食中心の“間違った食生活”にあると考えています。肉食中心の害については、チャイナ・プロジェクト(*中国で行われた大規模疫学調査) に代表される多くの研究結果によって明らかにされています。高血圧は、肉食中心の食事から植物性食品中心の食事に換えることによって改善されます。植物性食品(野菜・豆・果物)に含まれるさまざまな栄養素が、血圧を正常に保ってくれるからです。さらに、正しい食生活にすれば味覚も正常になり、塩気の強い料理は美味しいと感じなくなります。

 高血圧の予防・改善には、やはり「心(ストレス・食・運動・休養」の“4つの柱”をすべて満たすことが重要です。私たちも年齢を重ね、若い頃より血圧が上がってきています。しかし人間は、年をとれば血圧が上がるのは当然のことです。それを、薬を使って無理に下げると、認知症などの原因になると言われています。
 私たちは、健康のための“4つの柱”を心がけていれば、少しばかり血圧が高くても気にする必要はないと考えています。