病気予防の最適な歩き方

 皆さんは1月12日に放映された『たけしの健康エンターテイメント、みんなの家庭の医学』をご覧になりましたでしょうか。番組では医学界の最新情報として、最初にウォーキングに関する画期的な研究結果が紹介されました。それによると、さまざまな病気を予防するために毎日何歩歩けばいいのか、最適な歩き方が明らかになりました。今回は番組を見逃してしまった方のために、その内容を少しご紹介したいと思います。

 健康に欠かせないのが“運動”です。なかでも“ウォーキング”は、誰でも手軽にできるため大人気、中高年の3人に1人がウォーキングをしていると言われています。ところがこれまで、どのくらい歩けば健康を維持できるのか、また何歩歩けばどんな病気を予防できるのか、はっきりとした基準はありませんでした。よく「1日1万歩を歩けば健康になる」と言われていますが、実はこれには何の根拠もないのだとか。かつて掲げられた「1日1万歩以上歩こう!」という健康スローガンが世の中に広まり、それが通説になったようです。

 これを打ち破ったのが、東京都健康長寿医療センター研究所・運動科学研究室長の青柳幸利博士が率いる研究チーム。青柳氏の生まれ故郷である群馬県中之条町の65歳以上の全住民5000人を対象とし、身体活動(歩数)と病気予防の関係についての調査が2000年から実施されました。この研究では、日頃の運動頻度や時間、生活の自立度、睡眠時間、食生活などのアンケート調査を行い、この内の2000人に対しては詳細な血液検査や遺伝子解析を行いました。さらに、その内の500人に対しては運動量を記録する“身体活動計”を携帯してもらい、1日24時間365日の生活活動データを15年にわたって収集・分析しました。その結果、“1日1万歩”を覆す「病気にならない歩き方の黄金律」 が明らかとなり、医学界から「奇跡の研究」と呼ばれています。

 この研究から、健康維持および病気の予防には最適な“量”だけでなく、歩き方の“質”も重要であることが判明。その “黄金律” とは ――「平均1日8000歩、そのうち中強度の活動が20分」、この2つを組み合わせた運動(活動)がさまざまな病気予防にとって効果的であること、つまり健康長寿を実現することが明らかになりました。皆さんの中には「意外と少ない」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、青柳氏は「やり過ぎでもなく、足りな過ぎでもない“ほどほどの運動”こそが健康に対する万能薬」と述べています。そして重要なのは「その人の体力に応じた中強度の活動を取り入れること」。
 中強度の活動とは、日常生活で少し負荷がかかる活動のことで、例えばウォーキングで言えば、なんとか会話ができる程度の速歩きが目安。番組では、歩幅を自分のこぶし1つ分広げる“大股歩き”を勧めていました。

 この研究から、日本人に多い病気を予防することができる1日の身体活動量(歩数)と質(中強度活動時間)が明らかになりました。

 この表を見ると、病気を積極的に予防するためには、ただ歩くだけではなく中強度の活動、少し負荷がかかる運動が必須であることが分かります。病気予防における運動効果の基準が明確になったことはとても画期的で、これからは「1日8000歩、中強度の活動が20分」  これが健康を維持・増進するための運動の指標になっていくのではないでしょうか。

 ちなみに、番組では述べていませんでしたが、この研究によって身体活動計を持つだけで意識が高まり、歩数が約2000歩増えることが分かりました。また、身体活動計を持った人と持たなかった人とで医療費に月額1万円の開きが現れ、医療費削減という目に見える効果も生まれたそうです。

 私たちも、平地を歩くだけの単なるウォーキングでは思うような運動効果が上がらないことを実感し、約10年前に登山を始めました。今では名だたる山々に挑戦することができるようになりましたが、これも日頃の訓練があってこそです。坂道を登ったり、速足ウォーキングや荷物を背負っての歩行や筋トレをするなど、少し負荷をかけた運動を日常的に行っています。そうしなければ体力・筋力を維持することはできませんし、とても高い山には登れないからです。登山を始めたおかげで、訓練としての運動に積極的に取り組むようになり、みんな健康になったことを実感しています。スタッフの中には、夫婦で山登りをするようになって、共通の趣味ができ、健康レベルもアップしたと喜んでいる者もいます。

 登山は、健康を維持し病気を予防するための最適な運動です。みんなで励まし合いながら、これからもできるだけ長く続けていきたいと思っています。