全米でトランス脂肪酸使用禁止

先日、アメリカで“トランス脂肪酸” 関する嬉しいニュースが発表されました。
 アメリカでは、2006年から心臓病のリスクを高めるとして、食品に“トランス脂肪酸”の「含有量表示」が義務付けられています。またニューヨーク市やカルフォルニア州では、外食産業に対して1食あたり0.5g以上のトランス脂肪酸の使用を禁止しています。
 それがついに全米で、2018年6月までにトランス脂肪酸を含む油脂の使用禁止が決定されました。専門家によると、「これによって、年間2万人もの心臓発作と7千人の死亡を防ぐことができる」とのこと。世界をリードしているアメリカがこうした決定を下したことは、アメリカ国民の健康を守るだけでなく、今後日本にも大きな影響を及ぼしていくのではないかと、私たちも大いに期待しています。
 今回は、この“トランス脂肪酸”について少し取り上げてみたいと思います。

皆さんの中には、“トランス脂肪酸”と言われても「よく分からない」という方がいらっしゃるのではないでしょうか。毎日のように健康番組が放映されていますが、トランス脂肪酸の弊害についてはほとんど取り上げられていないため、日本ではまだまだ認識されていないのが現状です。
 “トランス脂肪酸”とは、不飽和脂肪酸の一種で、肉や乳製品などの食品 (脂肪) には自然に少量含まれていますが、多くは食用油の製造過程で生じるものです。食用油を高熱で処理したり、水素を加えて固まりやすくするときに生成される有害な脂肪酸です。つまり“トランス脂肪酸”とは、工場で人工的につくられる不自然な脂肪酸のことで、別名 “狂った脂肪酸” とも呼ばれています。

 高温処理された植物油やそうした油を使用したマヨネーズやドレッシングなどの調味料、油を固体化させてつくるマーガリンやショートニング、食品の成分表示に「植物油脂」「加工油脂」と記されているポテトチップやスナック菓子・食パン・菓子パン・クッキー・ケーキ・インスタントラーメン・アイスクリーム ・コーヒーフレッシュ・ピザ・・・・・・、トランス脂肪酸は驚くほど多くの加工食品に含まれています。

 “脂肪酸”は本来、人間の細胞を作るために必要なもので、エネルギー源としても使われます。しかしトランス脂肪酸は、全く体内で利用することができず、それが居座ることで他の脂肪酸の働きが阻害され、細胞機能が損なわれてしまいます。
 欧米の研究によると、トランス脂肪酸は悪玉コレステロールを増やし善玉コレステロールを減らすことで、直接的に心臓病のリスクを高めます。動脈硬化・ガン・認知症・不妊・アレルギー・アトピーなどを誘発することも明らかになっています。そのうえトランス脂肪酸は、体に蓄積されやすく追い出すことができないため、少量でもきわめて有害で、人間の健康にとって、まさに“百害あって一利なし”の脂肪酸と言えます。
 こうした研究結果を受け、WHO(世界保健機関)では、トランス脂肪酸の摂取量を一日に摂る総カロリーの1%未満に抑えるように勧告しています。今では、アメリカだけでなくヨーロッパをはじめ多くの国々でトランス脂肪酸を規制する動きが起こっています。
 ドイツでは、腸の慢性炎症疾患(クローン病)とマーガリン摂取との因果関係が証明されたため、数年前からマーガリンの使用を制限。オランダでも、トランス脂肪酸を含む油脂製品の販売を禁止しています。またデンマーク・スイス・オーストリア・カナダ・シンガポールなどでは、「含有量の規制措置」 がとられています。お隣の韓国や中国でも「表示の義務化」が行われ、多くの国々が「自主的な低減措置」を実施しています。

 一方、日本はと言うと、自主的にトランス脂肪酸の低減に取り組んでいる企業はあるものの、国による措置は全くとられていません。内閣府は、諸外国と比較してトランス脂肪酸の平均摂取量が少ないという理由から、「通常の食生活では健康への影響は小さい」としています。農林水産省でも「健康への悪影響を示す研究の多くは、トランス脂肪酸の摂取量が多い欧米人を対象としたものであり、日本人の場合にも影響があるかどうかは明らかではない」 としています。
 日本人の食生活が欧米化し、それによる病気が年々増加しているというのに、本当にそう言えるのか、疑問です。例えば、WHOが勧告している1日の総カロリーの1%をトランス脂肪酸の摂取量に換算すると、約2gになります。ファーストフード店でよく見かけるフライドポテトのMサイズ (135g) には、約3.4gのトランス脂肪酸が含まれています。それだけで1日の摂取基準を超えてしまいます。それに加えてハンバーガーやフライドチキンまで食べたら、いったいどれだけのトランス脂肪酸を摂ることになってしまうのでしょうか……。

 日本におけるトランス脂肪酸に関する研究で、興味深い結果が示されています。東京大学など8大学のグループによる初めての本格調査では  「日本国内でトランス脂肪酸摂取量がWHOの勧告基準を超えた人の割合は、30代では男性 10%、女性33.3%。40代では男性10.3%、女性37.9%」となっています。ヘルシー志向の女性の方が、いずれも男性の3倍以上を摂取していることは、本当に驚きです。サラダにかけるドレッシングや、ケーキ・クッキーといったスイーツが原因なのでしょうか。女性の間で年々増え続けているアレルギーや不妊や認知症も、トランス脂肪酸の摂取が原因の一つと言えるのかもしれません。

 アメリカにおける今回の決定をきっかけに、近い将来、日本でもトランス脂肪酸の弊害が広く知られるようになり、それにともない「含有量の表示の義務化」や「規制措置」がとられる日がくるのではないでしょうか。とは言え、この問題は企業の利害が絡んでいますから、簡単にはいきそうにありません。
 多くの人々が「栄養成分」や「賞味期限・消費期限」を気にしているように、「トランス脂肪酸の含有量」を気にする日がくることを、そしてアメリカのように、少しでも早くトランス脂肪酸の使用が禁止される日がくることを願っています。