陣馬形山

 1月9日、辺りが白々と明けてきた頃、中央自動車道松川インターチェンジを出、一路“陣馬形山登山口”を目指します。近づくにつれて路肩に積もった雪が増え、日頃目にすることのない雪景色に自然と心がワクワクしてきます。
 “陣馬形山(1445.3m)”は、中央アルプスの東の玄関口駒ヶ根市の南隣、中川村の北部に位置し、伊那谷から見た山の姿が陣羽織の形に似ているところから命名されたと言われています。山頂部は大きく切り開かれ、放牧場やキャンプ場があり、車で容易に行けるため夏はファミリー客でにぎわいます。
 昨年末、下見をしたスタッフが「山頂から見た白銀の中央アルプスや南アルプスの大パノラマが最高だったよ」と、目を輝かせて話してくれました。「それならぜひ、雪の季節に行こう!」ということになり、今年の初登山は“陣馬形山” に決まりました。

 午前7時15分、路面が凍っていたのでスタート地点“風三郎神社”の少し手前に車を止めます。冷たい空気に身震いしながら準備運動を念入りにし、いざ出発。アイスバーンを避けながら登り、5分ほどで“風三郎神社”に到着。空を見上げれば雲ひとつない晴天、「絶好の登山日和にどんな絶景に出会えるだろうか」  胸の高鳴りを感じながら、ガチガチに凍った道路を滑らないように慎重に登っていきます。 

 20分ほど行くと落ち葉が積もった登山道に入り、ホッと一安心。林の中は気持ちがよく、木のエネルギーが伝わってくるのを感じます。登っていくにつれて雪が凍りつき、アイゼンを装着。木々の間から時おり眩しい陽が差し込み、静かな山にザクザクという雪を踏みしめる音が響いています。

 8時30分、小休憩し、再びなだらかな道をひたすら登っていきます。しだいに雪が深くなり、辺りは一面の雪景色。足元には鹿の足跡がくっきりと残っていて、時々コロコロとしたフンも発見、この道を鹿も歩いているのかと思うと何だか楽しくなります。

 8時50分、“丸尾のブナ”に到着。樹齢600年というブナの巨木は根元に大きな穴があいており、老木ながら大きく枝を広げて立っている姿は凛としていて、存在感にあふれていました。ここでもう一度アイゼンのベルトを締め直し、再び出発。雪を踏みしめながらさらに登っていきます。幸いにも風が全くなく身体はポカポカ、雪山登山を満喫。

 9時25分、一面深い雪に覆われたキャンプ場に到着。キラキラと輝く雪の上を、足を取られないように前の人の足跡に続いて歩いていきます。すると突然、息を飲むような絶景が目に飛び込んできました。雄大な展望に思わず「すごーい!」と感動の声。さらに5分ほど進むと、明るく開けた山頂に到着。あちこちから「ヤッター!」と歓声が上がります。

 頂からの眺めは、これまであまり見たことがないほどの絶景でした。西には白銀に輝く中央アルプスの峰々が屏風のように連なり、その麓に広大な伊奈盆地が広がっています。その中を天竜川が蛇行し、山々と町が一望できる景色は本当に美しく、ため息が出るほど。さらに東に目をやれば、雄大な南アルプスの大パノラマ。みんな  「あれが昨年登った北岳・間ノ岳」「あれが木曽駒ヶ岳」と、指をさしては山の頂を確認。抜けるような真っ青な空に雪をかぶった峰々が映え、見つめているだけで心が洗われていくようでした。
 雪の上にシートを敷いて、お弁当タイム。絶景を眺めながら食べるおにぎりの味は格別で、50分間の休憩があっという間に過ぎてしまいました。

 10時20分、もっともっと見ていたい気持ちを抑えて、下山開始。同じ道をひたすら下っていきます。急な斜面も危険な個所もないので、安心して一気に下りました。10時50分、丸尾のブナを通過し、午後12時、無事駐車場に到着。
 歩行時間は3時間、いつもの登山に比べると短いものでしたが、雪山登山と予想以上の大展望をたっぷりと味わうことができ、みんな大満足でした。

 帰りは恒例の温泉  中央アルプスが一望できる展望風呂“望岳荘”に寄り、ゆっくりとお湯に浸かって疲れを癒しました。そこには “ハチ博物館” が併設されており、今回は時間にゆとりがあったので見学することにしました。
 どんなものが展示されているのか恐る恐る入ってみると、世界最大のハチの巣や、いろいろな形をしたハチの巣がいくつも展示されていました。なかでも、キイロスズメバチによる直径2.25m、高さ2.7m、周囲6.6mのハチの巣には思わず「わあ、大っきい!」と、信じられないほどの巨大さに仰天。

 本来、キイロスズメバチは1匹の女王蜂を中心に集団行動で巣をつくります。ハチの研究家 “富永朝和” 氏が、長年の研究からハチの習性を活かし、2年がかりで114匹の女王蜂と50万匹の通い蜂による共同作業により完成させたものです。他にも、全長4.1mもの長いハチの巣や、長野冬季オリンピックに因んで作られた聖火ランナーの形をしたものなどユニークなハチの巣に、みんな見入っていました。この地方でハチの子を食べる習慣があるのは知っていましたが、攻撃性の強いスズメバチを研究し、世界最巨のハチの巣までつくらせてしまう研究者がいたことに驚きました。

 今年の初登山は、素晴らしい景色と最高の天気に恵まれ、幸先のよいスタートとなりました。大自然からたくさんのエネルギーをもらい、今年も健康フレンドの仕事に、奉仕活動に、そして登山にも精いっぱい頑張っていこうと決意を新たにしました。