健康の基準が変わる⁉

 先月、健康診査や人間ドックで「異常あり」とされる基準が大幅に緩和されるかもしれないという、驚きのニュースが報じられました。日本人間ドック学会と健康保険組合連合会(健保連)が共同で研究を行い、従来の健康基準を塗りかえる“新基準値”を公表しました。
 今、この新基準をめぐって医学界や製薬会社はもちろんのこと、これまで医者の言うことを信じて薬を飲み続けてきた人たちの間にも「何を信じてよいのか分からない!」といった、大混乱が巻き起こっています。今回はこの“新基準”について少し取り上げてみたいと思います。

 健康診査や人間ドックを受けると、大半の人々は自分の検査結果が基準の範囲に収まっているかどうかが、まず気になります。ところがこの“基準値”、一律に決まっているものではありません。メタボ検診と言われる特定健康診査では、血圧やコレステロール値などの基準値が定められていますが、人間ドックや企業の健康診査では、人間ドック学会が示している数値を使ったり、各施設が独自に基準値を決めています。しかも基準はどんどん厳しくなり、そのせいで「病人」とされる患者が急増し、医療費もうなぎ上り。そこで、この研究がスタートしました。
 調査は、平成23年に人間ドックを受けた約150万人の中から、厳しい基準(喫煙をしていない、過去に大きな病気をしていない、飲酒は1日1合未満など)をもとに、きわめて健康な男女約1万~1.5万人を選出。血圧やBMI(肥満度)や血中コレステロールなど27項目の検査データを解析し、新たな健康基準値を導き出しました。
  その数値の一部は、次のようなものです。

 数値を見ていただくと分かるように、血圧・総コレステロール・LDL(悪玉)コレステロール値が大幅に緩和されています。“血圧”は、現在正常とされる数値は上(収縮期血圧)が129まで、下(拡張期血圧)が84までですが、新基準では上が147まで、下が94までとなります。また、健康番組でよく取り上げられる“悪玉コレステロール”については特に差が大きく、男女とも119以下が正常とされていますが、男性は178以下、女性は年齢を3段階に分け、30~44歳で152以下、45~64歳で183以下、65~80歳では190以下となっています。
 あまりにも大幅な緩和に、皆さんも驚かれたのではないでしょうか。「高血圧は悪い、悪玉コレステロールは健康に害をもたらす」というこれまでの常識を揺るがしかねない数値に、多くの患者や医療業界、製薬業界に大パニックが起きています。
 高血圧と診断され、長年薬を飲み続けている患者からは「自分は本当に病気なのか健康なのか、訳が分からない。今さら薬をやめることは怖くてできないし、どうしたらいいのだろう?」という不安の声。また患者はそっちのけで、医学界でも意見は真っ二つに割れて「大ゲンカ」になっているとか。

 現行の基準を定めた「日本高血圧学会」や各分野の専門学会は、新基準に大反発しています。医師の中には「人間ドック学会が出した数字は全くのデタラメ。もし患者さんが、この数字を信じて病気が悪化したり、亡くなったりしたらどう責任を取るつもりなのか」と反論。
 一方、新基準を高く評価する医師もいます。厳しい基準で病人を見つけては薬漬けにしている医療に対し、「薬で無理に血圧やコレステロールを下げる必要は全くなく、その副作用の方が問題である」と述べています。
 そもそも人間は年齢を重ねると血管が硬くなり、その分、血液を身体の隅々まで送るために自然と血圧を上げていると言われています。それに血圧は、ストレスや運動、環境などでも簡単に変動してしまいます。なかには「高血圧の目安は『年齢プラス90が基本』、この数字に10%をプラスしても、まだ誤差の範囲である」と主張する医師もいるほど。

 私たちも、全く同感です。長寿村では、血圧が180~200のお年寄りがざらにいると言いますから、少しくらい高くても何の問題もないということです。それよりも、降圧剤を飲んでいる患者が脳梗塞になる確率は約2倍にのぼるという調査結果が報告されているように、薬による副作用の方が大問題だと思います。

 これほど大きく緩和されると、「これまでの基準はいったい何だったのかしら?」と思われる方も多いのではないでしょうか。新基準を見ると、改めて従来の基準のずさんさに気がつきます。年齢はおろか、性別さえ分かれていない項目が大半。血気盛んな20歳の男性と、80歳を過ぎた女性が同じ基準で判断されるというのは、あまりにも不自然としか言いようがありません。
 しかも、これは世界の基準から見てもかなり厳しいもので、例えばアメリカ政府の委員会が決めた高血圧の基準は60歳代で上が150。LDLコレステロールについては、欧米では190以上を「異常」としています。
 では、なぜ日本はこんなにも厳しい基準なのでしょうか。以前“スタッフだより”で、健康診査について語っている医師 “近藤誠” 氏の「予防医療センターは結局、“患者を呼ぼうセンター”ですよ。これがけっこう儲かるんです」という言葉を紹介しましたが、基準を厳しくすればするほど患者は増え、薬の売り上げも急増し、医療業界全体が潤うという構図があるのです。現に、「要治療」とされる受診者が20年で、なんと10倍に増えていると言います。
 これが新基準になると、かなりの「病人」が「健康体」に変わります。 過去の調査によると、30~80歳の男女で血圧の上が130以上の人は全体の約30%。それが新基準の148以上になると、約8%に減少。現在の30~80歳の人口から考えると、高血圧の病人が、なんと1800万人も減る計算になるのだとか。また、悪玉コレステロールでは、30~80歳の男性でみると、従来の基準では全体の約52%の人が引っかかってしまいますが、新基準になると、たったの約4%だそうです。

 こんなにも「病人」が減るのですから、医療業界や製薬業界が黙っていられるわけがありません。人間ドック学会では、早ければ来年4月から基準値が変わる可能性があるとしていますが、はたしていつから導入されるのでしょうか……。

 このように健康の基準がガラッと変わると、「健康とは何だろう?」と、考える人も多いのではないかと思います。健康は人間にとって切実な願いであり、どんなにお金を積んでも買うことはできません。誰もが、年齢を重ねるごとに健康のありがたさを実感し、「できれば一生健康でいたい、寝たきりの状態にはなりたくない」と願います。しかしそれとは裏腹に、病気と無縁のまま一生を終える人は、きわめて限られています。
  私たちが提唱しているホリスティック医学に基づく「ホリスティック健康学」では — 健康とは、人間を構成している“霊”と“精神 (心)”と“肉体”がすべて健全な状態にあることとし、健康であるためには、その3次元に対するトータル的なアプローチが必要であると説いています。それが「健全な心」「正しい食生活」「適度な運動」「十分な休養」です。私たちは、人間が健康になるためには、現在のような薬に頼る医療ではなく、この“4つの柱”が最も重要と考えています。これらを同時に徹底して高めていくことで、健康レベルが上がっていきます。私たちが正しい食事に心がけているのも、また筋トレや登山に励んでいるのも、この“4つの柱”を充実させるためです。そしてそれ以上に大切なのは、正しい価値観や人生観、心の持ち方や生き方であると考えています。純粋に「人のために役に立ちたい」という心こそが生きる原動力となり、健康を手にするための最大の秘訣だと思っています。
  私たちは、病気の早期発見のために健康診査や人間ドックを受けることより、“4つの柱”「健全な心」「正しい食生活」「適度な運動」「十分な休養」を高めていく努力の方がはるかに大切であると考えます。国民全体がそうした健康になる生き方を優先するようになれば、日本はもっと健全な国家になるのではないでしょうか。