かみつきザルがアイドルザルに

 今年の夏の猛暑は、人間だけでなく山の動物たちにも大きな影響を与えたようです。山間部はもちろんのこと、市街地でも野生のサルやイノシシ・クマなどの目撃情報や被害があいつぎました。
 静岡の三島市で“かみつきザル”の話題が連日大きく報道されたのは、みなさんも記憶に新しいのではないでしょうか。実は私たちスタッフも、隣の県のことでもあり“かみつきザル”のことはいつも気になっていました。
 というのは、登山のときに野生のサルを何度も見かけるからです。そのどことなくユーモラスな姿には、怖いというより親しみを感じていました。しかし「これから山で出くわしたら十分に気をつけよう! 特に食べ物を持っているそぶりは見せないようにしよう!」    この事件をきっかけに、私たちのサルに対する見方が180度変わりました。

 ご存知のように“かみつきザル”に襲われたのは大半がお年寄りや女性で、被害にあった人は、なんと118人にものぼりました。サルは裾野市、沼津市、富士市などの5つの市を逃げ回り、懸賞金までかけられる始末。弱い人ばかりを狙うとは、とんでもない悪いサルです。しかも背後からそっと近寄ってきて、気がついた時には、すでに噛まれていたという人ばかり。
 スタッフの間では、「そんなずるがしこいサルは、1日もはやく捕まえて懲らしめなければ!」「どうやって捕まえてやろうか、懲らしめるにはどんな方法がいいか……」    連日このサルの話題でもちきりでした。ふだんは動物が大好きなスタッフばかりですが、悪いサルは容赦しません。「後ろから羽交い絞めにして、噛みつき返してやるのはどう?」などと、本気とも冗談ともつかない、とんでもない提案をするスタッフまで……。

 そんなある日、とうとう捕まったというニュースが報じられました。「一体どんなサルなのか」と、みんな興味津々。スタッフの誰もが、歯をむき出しにして暴れる“凶暴なサル”を想像していました。ところが、捕まったのはまだ若いメスザル。しかも檻の中で暴れるどころか、ガックリとうなだれ大反省の姿に、熱くなっていたスタッフもみんな拍子抜けです。  
 “かみつきザル”は今、三島市の観光施設で飼育されています。土・日の入園者数は通常の2~3倍にも膨らむほどの人気ぶり。一目見たいと訪れた人からは、「人を噛んだようには見えない」「かわいらしい」といった感想が寄せられ、サルも近くまで寄ってきては愛嬌をふりまいているとか  まるでアイドルみたいです。

 三島市では、この人気者になったサルの名前を一般公募しました。
 私たちも“捕獲作戦”のことなどすっかり忘れて、いろいろと名前を考えてみました。「カムカム」「カミリン」「カムジロウ」など   出てくるのは、すべて“噛む”に由来するものばかり。
 被害者が、噛まれたことをいつまでも思い出すような名前は不謹慎ということで、さらに頭をひねって考えたのが“ラッキー”です。「殺されないでラッキーだったね」「みんなに愛されて良かったね」というメッセージを添えて、さっそくメールで応募しました。

 ところが、全国からの応募者は5000人。「私たちのつけた名前は、はたしてどうなるのか……」  みんながそう思っていたところ、先日“名前が決まった” というニュースが報じられました。その名前を聞いて、みんなビックリ仰天‼    つけられた名前は、なんと「らっきー」だったのです。みんな「信じられない!」と大喜び。
 選んだのは、三島市の市長さん。選んだ理由は私たちのメールの内容と全く同じでした。
 

 「悪さをしたのに命が助かり、おまけに人気者になった幸運なサル」というものでした。スタッフ全員の思いが市長さんに届いたようです。全国を騒がせた“かみつきザル事件”は、私たちの間でもやっと一件落着、ハッピーエンドで終わりました。

PS: 同園には“ラッキー”という名前のワラビ―がいるため、ひらがなの“らっきー”になりました。後日行われた命名式には、ラッキーという名前を応募した小学生が市長とともに参加。“らっきー”にバナナを渡そうとしたところ、服に噛みついたというハプニングがあったとか……。かわいい名前をもらっても“かみつき癖”は簡単には直らないようです。
 “らっきー”という名前が決まったあと、不謹慎なスタッフの一人が「やっぱり“ガブリエル”の方がよかった」と、つぶやきました。
※ちなみに“ガブリエル”という名前は8位にノミネートされていました。