愛犬タロー5弾

 今年の夏は連日猛暑が続き、“熱中症”で多くの人々が死亡するという異常な事態を迎えています。幸いなことに健康フレンドの周辺は自然に恵まれ、裏には山が控えていることもあって気温がやや低く、市街から来るお客様は「ここは涼しいですね!」と口をそろえておっしゃいます。

 しかし、猛暑の毎日にタローもすっかり夏バテ気味。普段なら、スタッフが散歩に連れていく気配を察し小屋からすぐに出て来て“ワンワン”と大騒ぎするのですが、この暑さでその元気もありません。少し喜ぶようなフリを見せるものの、ちょっと歩き始めると、「仕方なく散歩に行ってやる……」といった有様です。

 いつものように山道を登り頂上に着く頃には、暑さのせいで「ハーハー、ゼーゼー」と口を大きく開け、よだれをダラダラ流しています。早速スタッフから水を分けてもらい、何度も飲み干します。そして余った水を耳にかけてもらって、少し元気を取り戻します。

 頂上から下り山の中腹の道を回って健康フレンドに戻りますが、その途中に洗面器ほどの小さな水場(手洗い場) があります。3年前にスタッフの一人が“湧き水”のまわりを掘り、小石を並べてつくったものです。暑くなるとタローは決まってその“水場”で喉を潤します。

ところが去年の夏、タローがその中に入り突然しゃがみ込みました。そしてしばらくじっとして動きません。スタッフはタローが「腰を抜かした!」と、びっくりしてしまいました。実は余りにも暑くて、お尻を清水に浸し体温を下げようとしていたのです。それ以来、真夏の散歩ではその水場で体を冷やすことが習慣になりました。さすが自然児タロー、“清水でお尻を冷やす”とは、なかなかやるものです!

 そんな中、今年スタッフが散歩に行ったとき、“水場(手洗い場)”にしゃがみ込んでいる一人のおじいさんと出会いました。何とおじいさん、水場から水筒に水を入れているではありませんか。びっくりしたスタッフ、タローを引っ張り急いでその場を離れました。それからはタローを連れてこの場所に近づくときは、必ず周りを注意深くうかがうようになりました。

 健康フレンドでは、人間と動物との区別を徹底しています。「人間は人間、動物は動物と、メリハリのある関係を保ってこそ動物は幸せになれる」という哲学があるからです。ですから猛暑の日は、人間はクーラーをつけて部屋で涼み、タローは戸外で暑さに耐えることになります。( ※考えてみると、40年前の大半の日本人がタローと同じような運命にありました。その頃の人たちにとって「夏の暑さ・冬の寒さ」は、過酷な試練そのものでした。)

 それにしても今年の暑さは尋常ではありません。日本中の人間も動物も“夏バテ”です。タローも小屋の前でぐったりとし、トドかオットセイのように伸びきっています。「タロー!」と声をかけても、シッポを振るだけで頭を起こそうともしません。

 この様子を見てスタッフは、少しでもタローを涼しくしてあげようと頭を振りしぼりました。“犬用の扇風機”や“犬小屋用の断熱シート”など、いろいろ試してみました。でも、いまいちタローは喜びません。そして思いついたのが“霧吹き” です。
 「霧吹きで体中に水を吹きつけ冷やそう!」というアイディアです。( ※人間と違って汗腺のない犬は暑さに弱く、しばしば熱中症になります。スタッフ考案の“霧吹き”は、犬の熱中症対策としてかなり効果があると思われます。)

 タローは、顔に水がかかるのをイヤがります。そこでスタッフはまずお腹から、そして背中からお尻へ、最後に首周りと耳に霧をかけます。最初、タローは逃げ回っていました。しかし徐々に “霧吹き” に慣れて気持ち良さが分かるようになり、今では霧吹きを歓迎するようになりました。スタッフから一日に何回も霧吹きをしてもらい、その度にタローは元気を取り戻しているようです。確かに霧吹きを始めて以来、ひどい夏バテはなくなりました。
 猛暑のお蔭でタローの人生にまた一つ、“霧吹き” という大きな宝が増えました。

 夕方になり少し気温が下がると、台所の前でワンワンとうるさく吠え続けます。そろそろタローのお腹が空いてきたようです。猛暑の中でも、タローの“食欲”はいぜん健全です。
 それを見て意地悪なスタッフは「少しへばった方がタローのためかもしれない……」と、心の中でつぶやきました。