愛犬タロー第4弾

 このすばらしい“住まい”で、タローは新春を迎えました。小屋の入口は、防寒のためにカーテンで覆われています。実はこの防寒用のカーテンは、タローの大好きなあるスタッフが着古したTシャツを画びょうで止めただけのものなのです。

 タローの小屋の床には、三重の段ボールが敷かれています。天井は古くなったバスマットをドーム状にしてあって、二重の天井になっています。そして小屋の空間には、スタッフの匂いの浸み込んだ古着を、これでもかというように詰め込んでいます。

 タローはこの“冬用の住まい”が、たいへんお気に入りです。このすばらしい住まいのお蔭で、タローは寒い冬も何の心配もありません。小屋の中に手を入れてみると、そこは生暖かく、まるで暖房が入っているようです。暖かい小屋の心地よさに、タローは一日中、小屋に入ったままです。そして時折外で物音がすると、小屋の中から顔だけ(時には鼻だけ)出して外の様子をうかがいます。

 言うまでもなくタローの関心は、「食べること」と「散歩」だけです。食べものをくれるのか散歩に連れていってくれるのかを、カーテンから顔を出して確認します。食べものでも散歩でもないことが分かると、再び暖かい部屋の中でぬくぬくとうたた寝を始めます。こうなるとスタッフが 「タロー」と、どれだけやさしく呼んでも何の反応も示さず身動き一つしません。

 時にスタッフが台所から出てくると、勘違いして「ひょっとして“おやつ”でもくれるのかな?」「それとも散歩に連れていってくれるのかな?」と、カーテンから出てきます。しかしスタッフが外の掃除をしたり洗濯ものを干し始めると、「チェッ、散歩じゃないのか!」と、さっさと小屋の中に戻ってしまいます。あとはいくら呼んでも、まったく応答がありません。こうしたタローを見ていると、否応なくスタッフに“いたずら心”がむくむくと湧き上がってきます。

 タローの知っている単語の中に「イモ」と「ごはん」があります。タローは「イモ」が大好きです。スタッフが大声で「イモ!」と叫んで、台所の戸を少し開けます。そしてイモをちらりとのぞかせます。嗅覚のずば抜けているタローのこと、すぐにイモの気配を察してカーテンから鼻だけを出して、クンクンと匂いをかぎ始めます。それを確認してからスタッフは、ドアをもう少し開け、これみよがしにイモを見せます。「これは本当にイモの匂いだ!」と、タローは急いで小屋の中から外へ飛び出してきます。

 しかし意地悪なスタッフはタローがドアの近くにくると、さっとドアを閉めてしまいます。もうタローはたまりません。台所のドアの前で、近所中に響き渡るような大声で“ワンワン、ワンワン”と鳴き続けます。しばらく時間を見計らってスタッフはイモを手に持ち、やおら外へ出ていきます。そしてゆっくりとイモを半分に割って、その一つをタローの前に置きます。「おあずけ!」と言うと、じっと我慢しますが、外の冷たい北風とコンクリートの床のせいで、タローの腰はブルブルと震えています。
 スタッフが“お手”と“おかわり”をさせようとしますが、すぐにイモを食べたいタローは、スタッフが声をかける前に、勝手に自分の方から“お手”と“おかわり”をしてきます。意地悪なスタッフは、そんなタローのせっかちな態度が気に入りません。わざとゆっくりとお手をさせ、時間をおいておかわりをさせます。そしてメリハリの利いたお手とおかわりをするまで、何度でも繰り返します。やがてイモを目の前にしたタローの口から、ヨダレがぽたぽたと落ちてきます。その様子を見て意地悪なスタッフはやっと、「よしっ!」と合図をします。タローは電光石火のごとく、アッという間にイモにかぶりつきます。

 それからすぐにタローは、スタッフの手に残っている半分のイモをもらうべく行動に移ります。おすわりをし、お手とおかわりを矢継ぎ早に繰り返します。ここでスタッフの心の中に、さらに意地悪な思いがふくらみます。半分に割ったイモをまた半分に小さくちぎって、それをおもむろにタローの前に置きます。それからお手とおかわりを、前と同じようにじっくりと時間をかけてやらせます。やがてイモがなくなってしまいます。イモがなくなったのを見届けた瞬間、タローはさっと小屋の中に戻ってしまいます。

 その後、どんなに「タロー!」と呼んでも「イモ!」と叫んでも、もはや顔を出しません。カーテンが、むなしく北風にひらひらと揺れるだけです。

 小屋の中から、タローの “心の声” が聞こえてきます。
 「だからボクは、一年一年と性格が悪くなっていくんだ!
 皆が、いつもボクをいじめるから……。
 本当はこんなところへ、来とうはなかった!!」

 (どこかで聞いたテレビのせりふ?)