神さんのりんご

 青森県の神(じん)さんのりんご畑では、9月中旬になると「さんさ」の収穫が始まります。「さんさ」はスッキリッとした酸味と、ほのかな甘みの小ぶりのりんごです。そのあと「つがる」「昂林」「千秋」……と続き、来年の2月初めまで10種類近くのりんごが送られてきます。りんごの種類によって甘みや酸味・食感が違い、それぞれのりんご本来の味を堪能することができます。初めて聞く品種名のりんごがすごく美味しいという場合もあり、「特にこれがおススメです」と前もってお答えできないのが悩みのタネですが、どれも個性があって美味しいりんごです。

 私たちはフレンド発足当初、良いりんごはないかと方々を探しまわりました。“無農薬で安心なりんご”というだけでなく、愛情を持ってりんごを育てている方を探しました。そうした中で、ある雑誌に載っていた神さんの記事を読み、りんご栽培に打ちこむ誠実さに心が動かされ、さっそく電話をしてみました。子供を眺めるような優しい表情でりんご畑に立っている写真を見て、「この方なら!」と思ったのです。それ以来のお付き合いですから、ご縁ができてもう20年近くになります。

 神さんは、りんごの「有機無農薬栽培」の先駆けとしてたいへん有名な方です。有機無農薬栽培に取組まれたきっかけは、昭和40年の初め頃に消費者の方から「りんごの外観はきれいだけど、味が良くない。昔のようなりんごがほしい」と言われたり、りんご農家のお姉さんや妹さんを若くして亡くされ、農薬の多用に疑問を抱いたことからと聞いています。それまでは10種類以上の農薬や化学肥料を使っていたそうですが、一念発起して、昭和47年からそれらを一切使わずにりんごを作り始めました。農薬や化学肥料を使った農業が全盛期のときに無農薬・無化学肥料栽培を始められたのですから、その決意は並々ならぬものだったはずです。

 1年目は虫と病気の被害で全滅。始めてから3年間は収穫が皆無。先祖伝来の土地を手放さなければならないほど生活が困窮しても、有機農業を広めたいという一念で続けてこられたそうです。想像できないほどのご苦労を乗り越えられたのは、きっとご家族の理解が大きな支えとなったのではないかと思います。

 4年、5年と経つといいりんごが穫れるようになり、次第にお仲間もできてきたそうです。神さんは、「これという栽培技術を持っていない」とある雑誌の中でおっしゃっていますが、病気や害虫からりんごを守るために1つずつ袋をかぶせたり、土作りを徹底するなど「有機無農薬栽培」へのこだわりとりんごへの愛情を、ずっと持ち続けてこられました。

 神さんは信念に貫かれた人生を送り、3年ほど前に亡くなられました。現在は息子さんが後を継いで、りんごはもちろんですが、それ以外の作物も作っておられます。以前いただいたお知らせには「二代目後継者ですが、よろしくお願いします」と書き添えてありました。短い言葉の中に、農業への前向きな熱意と、お父さんという手本を誇りにしているのが感じられました。

 手間を惜しまず大事に育てられたりんごは、収穫前の予約の段階で完売になるほど大人気です。神さんのりんごは一度食べたら忘れられないほど美味しいので、人気があるのも頷けます。

 実は、今年の3月に神さん(息子さん)から「健康フレンドのショールームを訪ねたい」との連絡をいただきました。あいにくショップはお休みの日でしたので、神さんをお迎えすることはできませんでしたが、豊橋で行なわれた有機農業研究会の全国大会会場でスタッフの一人がお会いしてきました。これまでは電話やFAXだけのお付き合いでしたから、お父さんから数えて20年目にして初めてお顔を見ながらお話を聞くことができました。

 お目にかかったスタッフは、「神さんは、これまでのお付き合いで感じていた通り、とても穏やかで誠意のある方。短い時間しかお話できなかったけれど、りんご作りへの熱意を言葉の端々から感じることができた。お会いできて本当に良かった」と言っていました。私たちはその話を聞いて、ますます「神さんと神さんのりんご」のファンになりました。

 健康フレンドでは、りんごをはじめ米や雑穀、野菜などを直接農家の方から取り寄せています。お付き合いしている農家の皆さんは、とても誠実で研究熱心な方ばかりです。「おいしくて、安心できる作物を作るためには、工夫と改良が欠かせない」と、どなたもおっしゃっています。送られてくる作物がおいしいのは、手間ひまを惜しまない農家の方たちの努力があればこそです。土が付いたままの人参やジャガイモからは、大地のエネルギーがそのまま伝わってきます。

 私たちはこれからも、誠実に農業に取り組んでおられる方たちとのご縁を大切にしていきたいと思っています。有機農業・自然農法に携わる皆さん、どうか先駆けとして、どんどん日本の農業を引っ張っていってください、応援しています。