深刻化する子供の貧困

 5月5日は「こどもの日」、子供たちの健やかな成長を願って、各地でさまざまな行事が行われました。少子高齢社会の日本では、子供は “国の宝” とも言える存在です。しかし昨年、厚生労働省から驚きの数値が発表されました。それによると、子供の貧困率がこの10年で悪化の一途をたどり、2012年には過去最悪の16.3%に達し、実に子供の6人に1人が十分な食事を摂れていない状態だというのです。

 こうした事態を受け、昨年、NHKの 『クローズアップ現代』 や 『NHKスペシャル』 で「子供の貧困」をテーマにした番組が放映されました。皆さんの中にもご覧になった方がいらっしゃるのではないでしょうか。

 私たちも、子供の貧困が進んでいることは知っていましたが、これほどまで厳しい状況に置かれている子供たちがいることに、衝撃を受けました。そこで今回は、社会問題にまでなっている「子供の貧困」について少し取り上げてみたいと思います。

 「子供の貧困」と言うと、誰もが真っ先にストリートチルドレンや飢餓で苦しんでいるアジアやアフリカなどの子供たちを思い浮かべるのではないでしょうか。それに比べると、日本の豊かさは世界の中でもトップクラス、社会保障制度も充実し、子供には義務教育が保障されていますから、「この日本に子供の貧困なんて、本当にあるの?」と考える方も多いのではないかと思います。

 実は「貧困」には、大きく分けて2つの概念 ―「絶対的貧困」と「相対的貧困」があります。「絶対的貧困」とは発展途上国などに見られる、人間が生きるのに必要な最低限の衣食住もままならない極貧の状態を言います。

 一方「相対的貧困」とは、いわゆる格差社会が生み出した貧困、日本のような先進国の中で、経済的に困窮し人並みの生活を送ることができない状態を言います。こうした貧困は、その実態が見えにくいため、人々が知らないうちに深刻な事態に陥っているのです。

 日本は現在、OECD(経済協力開発機構)加盟国34か国の中で、何と子供の貧困率が4番目に高いというのですから、本当に驚きです。

 番組では、子供の貧困の実態を把握するためにNPO法人「フードバンク山梨」と新潟県立大学が行った調査をもとに、その悲惨な状態を報じていました。

 例えば、母親と子供3人の母子家庭では、児童手当を入れても収入は少なく、食費にまわせるお金はほんのわずか。そのため育ち盛りの子供の食事が1日1食、お茶漬け1杯だけという日もありました。母親は「せめてご飯だけでもお腹いっぱい食べていいよと言ってあげられたら……」と辛そうに語っていました。

 成長期の子供の食事が1日1食で足りるはずがありません。飽食の時代と言われる日本で、こうした信じられないような状態に置かれている子供がいることに、本当に心が痛みます。

 また、貧困は肉体だけでなく、子供の精神面にも大きな影響を及ぼしています。1日の食事を学校給食に頼っている子供が、給食費を払えないことに負い目を感じていたり、お金がないことへの劣等感から友達の輪に入れず、ついには不登校になってしまった子供もいます。さらに、家を借りるだけの経済的なゆとりがないため、母子3人がネットカフェで暮らしているという、衝撃的なケースもありました。

 「貧困」は単にお金がなくてモノが買えないというだけでなく、子供の心身の正常な成長を妨げてしまいます。しかも、どの子供も親思いで、見ていていたたまれない気持ちになりました。調査にあたった「フードバンク山梨」の代表は、想像を超えた深刻な事態を目の当たりにして、「社会がもっと力を尽くすべき時期にきているのではないか」と語っていました。

 昨年8月、「すべての子供たちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指して!」をスローガンに、政府が初めて「子供の貧困対策の大綱」を制定しました。重点施策として、「教育の支援」「生活の支援」「保護者の就労支援」「経済的支援」の4つを掲げています。

 しかしこうした国の支援があっても、貧困は周囲から見えにくく、当事者は声を上げられないのが実情。困っていても誰に相談したらいいのかわからない、支援があることすら知らないという人が多く、援助の手はなかなか届いていません。

 そうした中、経済的な事情で十分な食事を摂れない子供のために、各地でさまざまな活動が広がっています。

 その一つが “フードバンク” です。すでにご存知の方も多いかと思いますが、市民や企業から寄付された食料を経済的に苦しい家庭に届ける活動です。「フードバンク山梨」では、平成22年から活動を開始し、届ける対象が今では1000世帯を超えたとのこと。それでもまだ支援を必要としている世帯が多いと指摘しています。

 また、大阪府箕面市の「暮らしづくりネットワーク北芝」では、学校の長期の休みに集まってくる子供たちのために「ぴあぴあ食堂」を開設して、栄養バランスを考えた食事を1食300円で提供しています。きっかけは、昼食の時間になっても「もう食べた」とか「お腹がすいてない」などと言って、やせ我慢をしている子供が目立ってきたためだとか。

 東京都豊島区でも、「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」がメンバーの自宅を利用して、月に2回「こども食堂」を開いています。1食300円ですが、子供は手伝いをすれば無料で食べられます。ボランティアの代表が―「一緒にご飯を食べることが、子供たちの体と心の栄養になっている」と語っていたのが印象的でした。実際に不登校の子が、人と触れ合うことで気力を取り戻し、少しずつ登校できるようになっていました。

 また栃木県の大田原市では、小中学校の給食費を無料化しています。市長は「財源を確保するのは大変ですが、子供たちの成長が何よりも大切」と述べています。給食費を払えない子供の心の負担をなくすという大きな効果があるとして、教師も喜んでいるそうです。私たちも、小中学校の給食費の無料化には大賛成です。こうした取り組みが他の市町村でも増えていってほしいと心から思います。

 豊かなはずの日本の中で、今この時も、経済的に苦しくてまともに食事すら与えられない子供たちのことを思うと、本当に気の毒でなりません。その一方で、こうした子供たちのためのボランティア活動が広がっていることは、まさに一条の光であり、素晴らしいことだと思います。「一人でも多くの子供たちを救いたい!」という “利他愛” の精神こそが、闇の中にいる子供たちを救うことができるのだと改めて感じました。

 物質中心主義・経済至上主義の今の世の中では、格差はますます広がり、子供の貧困もさらに深刻になっていくのではないかと思います。人間が、物質的な豊かさよりも心の成長を第一に考えるような社会にならないかぎり、貧困の連鎖を食い止めることはできないと思いますが、こうした活動が日本中に広がって、一人でも多くの子供が苦しい状況から救われていくことを願っています。

 「格差」と言えば、昨年、フランスの経済学者 “ピケティ” の著書 『21世紀の資本』 が世界中で大ベストセラーになりました。ピケティ氏は、今後さらに格差が拡大する可能性が高いと分析し、行き過ぎた不平等をなくすために富裕層に累進課税を課すこと、そして「グローバル資本課税」のシステムを作ることを提唱しています。それについて賛否両論ありますが、私たちはピケティ氏の考えに賛同しています。「持てる者が持たざる者に分け与える」―これこそ真理であり、不平等をなくす最良の方法だと思うからです。