北穂高岳

 「9月になったら“北穂高岳”に登ろう!」 と、8月の終わりから天気予報をチェック。ところが予想外の大雨、豊橋と浜松の被害が全国ニュースで流れました。幸いにもスタッフには被害がなく、ホッと一安心したのも束の間、今度は東日本の各地で甚大な被害が出てしまいました。鬼怒川の堤防が決壊した映像は何度見ても他人事ではないと、改めて“自然の脅威”を感じました。今もなお、苦しい生活を強いられている方々には、心よりお見舞いを申し上げます。

 心配した台風18号も無事去り、やっと晴天がもどってきました。9月14日~16日、念願の“北穂高岳”登山の決行です。今回のコースは、2年前の“奥穂高岳”登山の時と同じく“上高地”からスタートし、“涸沢ヒュッテ”で1泊。2日目の朝、南稜ルートで“北穂高岳”の頂を目指します。そして同じ道を“横尾山荘”まで一気に下山し、そこで1泊。3日目は、上高地の自然を満喫しながらゆっくり戻ってくるというもの。

 “北穂高岳(3106m)”は、穂高連峰の一つで奥穂高岳(3190m)・涸沢岳(3110m) に次ぐ高い山です。難所ポイントは“南稜ルート取付点”  傾斜のきつい岩場に鎖と梯子が取り付けられています。下見をしたスタッフによると「慎重に登れば大丈夫!」とのこと。険しい岩場が続くけれど、頂上からの眺めは最高だとか。大きな期待とちょっぴりの不安を胸に、豊橋を出発しました。

 午前7時、“上高地バスターミナル”に到着。雲ひとつない晴天、吐く息が少し白く清々しさを全身で味わいます。軽く準備運動をし、いざ出発! 梓川沿いを“明神岳”の雄大な峰々を眺めながら進むと、2年前の記憶が鮮明に蘇ってきます。以前も見た、真っ白い“サラシナショウマ”や薄紫色の“ノコンギク”や“アザミ”の花が満開。よく見ると草木の間や切り株に白や茶色のキノコが生えています。木々の間から射す陽の光がキラキラと眩しく、フキやクマザサが生い茂った林の中をどんどん進んでいきます。ザーザーという清流の音に癒され、力が湧いてくるのを感じました。

 10時5分、“横尾山荘”に到着。歩き始めて3時間、ここまでは汗ばむこともなく爽やかなハイキング気分でした。ここで明日の宿泊の予約を取り、30分休憩。軽く食事をしたり水の補給をして、再びスタート。揺れる“横尾大橋”を渡り、石がゴロゴロした緩やかな道を歩いていきます。まっすぐに切り立った巨大な“屏風岩”が見えてくる辺りから急な登り坂、沢の音を聞きながら黙々と登っていきます。足元に小さな赤い実を見つけては、思わず「かわいい!」と笑みがこぼれます。

 11時45分、沢の音が一段と大きくなると“本谷橋”に到着。多くの登山者が涼をとっていました。私たちもさっそく冷たい川の水で手を洗ったり、顔や首を拭いて、ほてった体を冷まします。清流と吊り橋、緑に囲まれたこの場所は、最高の休憩所です。ここから本格的な登り坂、岩の登山道を足元に注意しながら登っていきます。すると突然、先頭を行くスタッフの「“涸沢” よ!」という声、目標が見えてきました。容赦なく照りつける日差しに汗が滝のように流れ、水分補給をこまめにします。歩幅は狭く、深呼吸をしながらゆっくりゆっくりと登っていきます。上の方に“涸沢ヒュッテ”の吹流しが見え、「もうひと踏ん張り!」と激励が飛びます。一歩一歩踏みしめながら必死に登っていきます。赤や緑の実をつけた“ナナカマド”の群生を越え、14時10分、やっと“涸沢ヒュッテ”に到着しました。 

 “涸沢カール”には多くの雪渓が残っていて、何度見ても感動します。思いのほか寒く、みんな上着の上にカッパを重ね着し、テラスで明日のルートを確認。黄色く色づいてきた茂みの遥か上にある“北穂高岳”の頂をじっと見つめます。

 翌朝6時30分、絶好の登山日和です。朝焼けに輝く山頂を眺め、「さぁ、行くぞ!」と気合を入れて出発。カラフルなテント場を通り抜け、急な坂を登っていきます。20分ほどで体が暑くなり、衣類を調整。真っ赤に実ったナナカマドの群生を横に、岩がゴロゴロした道をひたすら登っていきます。振り返ると “涸沢ヒュッテ” が小さくなり、高い所まで登ってきたことを実感。登っていくにしたがい、大きな雪渓とそれを囲んでいる穂高岳の峰々がどんどん目の前に迫ってきます。そして遠くの山々まで一望できるようになりました。険しい岩場が続く登りではストックをしまい、両手でしっかりと岩をつかんで登ります。

 7時50分、難所ポイントの“南稜ルート取付点”に到着。ここで小休憩。“前穂高岳”がくっきりと見え、雲海の向こうには富士山の山頂も望めます。すると突然、すぐ横のカールの上からゴロゴロッと石が転がってきました。すかさず下にいる登山者たちに「落石!」と叫びます。山の恐ろしさに緊張が走りました。

 取付点では、最初は鎖場  傾斜40度ほどの一枚岩に長い鎖が取り付けられています。足をかける所を探しながら右手は岩を、左手は鎖をつかんで「ヨイショ!」と登っていきます。鎖場を登り切ると次は梯子   傾斜60度ほどの岩場に短い梯子と長い梯子が取り付けられていて、スリル満点。梯子をしっかりとつかみ、慎重に登っていきます。それを登り切ると、真横に2年前に登った“ザイテングラート”が見え、“奥穂高岳” が一望できます。
 9時25分、ようやく“南稜テラス”に到着。ここでは、登山者のためにテントが張れるようになっています。ヘリコプターが下を飛んでいることに、ビックリ! 頂上まであと少し、最後の力を振り絞って登っていきます。

 9時45分、ついに“北穂高岳”山頂に到着。みんな「ヤッター!」と、両手をあげて歓声。山頂は360度の大パノラマ   北方向には大キレットの先に“槍ヶ岳”の雄姿がドーンと迫り、南方向には荒々しい穂高連峰、すぐそばには思わず息をのむほど鋭く尖った絶壁。雲ひとつない青空が峰々をくっきりと映し出し、最高級の大展望に言葉を失うほど。ただただじっと、その感動に浸っていました。

 あっという間に時が過ぎ、下山開始。同じ道を滑らないように慎重に下っていきます。12時、難所ポイントを無事通過し、ホッと一安心。
 午後1時20分、やっと“涸沢小屋”に到着。頑張ったご褒美としてりんごジュースやソフトクリームを購入。カールの大絶景を眺めながらの味は、格別でした。

 1時50分、“涸沢ヒュッテ”に戻ってきました。預けておいたザックを背負い、今度は“横尾山荘”を目指して一気に下っていきます。登ってきた道をどんどん下り、2時間ほどで“本谷橋”に到着。登山者の姿はなく、河原を独り占め。汗ばんだ体を冷まし、再び出発。足がだんだん重くなり、「あと少し、あと少し」と気力を振り絞って歩き続けます。「お風呂が待っているから頑張って!」という掛け声に、疲れた顔から笑い声がこぼれます。足は棒、もう一歩も歩きたくないと思った瞬間、目の前に“横尾大橋”が見え、「やっと着いた~」と安堵の声があがりました。
 5時、ようやく“横尾山荘”に到着。この日の総タイムは10時間半、みんなクタクタでした。

 “横尾山荘”に泊まるのは初めてです。ワクワクしながら中に入ると、あまりのきれいさにみんな大感激、疲れが一気に吹き飛びました。これまでいくつもの山小屋に泊まりましたが、ここは断トツです。寝床が一人一人区切られていて、シーツはパリッと新しく、枕カバーとお風呂用のタオルが付いています。食事はバラエティに富んだおかずがいっぱい、とても美味しくいただきました。一番のお楽しみのお風呂もきれいで、少し熱めのお湯にゆったりと浸かり、汗を流しました。あまりの疲れに体がほてって寝付けない者、横になるなりすぐにいびきをかいて寝つく者など、長い長い一日が終わりました。

 3日目は少し曇っていましたが気持ちのいい朝、でも全身、ひどい筋肉痛。あちこちから「痛~い」という悲鳴が聞こえてきます。少しでもほぐそうとマッサージやストレッチをしますが、とても追いつきません。多めに休憩をとり、ゆっくりと歩いていくことにしました。

 7時50分、山荘前でラジオ体操をし、元気に出発。上高地の自然をたっぷりと味わいながら“河童橋”を目指します。立派な“フジオオアザミ”や可憐な “トリカブト” の花が目を楽しませてくれました。“徳沢”と“明神池”で30分ずつ休憩し、11時40分、“河童橋”に無事到着。人懐っこいカモが餌をねだって出迎えてくれました。観光地とあって、多くの人で賑わっていました。

 3日間の総歩行時間は約17時間、全身ガクガクの厳しい登山でしたが、トップクラスの大展望を堪能することができ、忘れられない思い出がまた一つ増えました。

陣馬形山

 1月9日、辺りが白々と明けてきた頃、中央自動車道松川インターチェンジを出、一路“陣馬形山登山口”を目指します。近づくにつれて路肩に積もった雪が増え、日頃目にすることのない雪景色に自然と心がワクワクしてきます。
 “陣馬形山(1445.3m)”は、中央アルプスの東の玄関口駒ヶ根市の南隣、中川村の北部に位置し、伊那谷から見た山の姿が陣羽織の形に似ているところから命名されたと言われています。山頂部は大きく切り開かれ、放牧場やキャンプ場があり、車で容易に行けるため夏はファミリー客でにぎわいます。
 昨年末、下見をしたスタッフが「山頂から見た白銀の中央アルプスや南アルプスの大パノラマが最高だったよ」と、目を輝かせて話してくれました。「それならぜひ、雪の季節に行こう!」ということになり、今年の初登山は“陣馬形山” に決まりました。

 午前7時15分、路面が凍っていたのでスタート地点“風三郎神社”の少し手前に車を止めます。冷たい空気に身震いしながら準備運動を念入りにし、いざ出発。アイスバーンを避けながら登り、5分ほどで“風三郎神社”に到着。空を見上げれば雲ひとつない晴天、「絶好の登山日和にどんな絶景に出会えるだろうか」  胸の高鳴りを感じながら、ガチガチに凍った道路を滑らないように慎重に登っていきます。 

 20分ほど行くと落ち葉が積もった登山道に入り、ホッと一安心。林の中は気持ちがよく、木のエネルギーが伝わってくるのを感じます。登っていくにつれて雪が凍りつき、アイゼンを装着。木々の間から時おり眩しい陽が差し込み、静かな山にザクザクという雪を踏みしめる音が響いています。

 8時30分、小休憩し、再びなだらかな道をひたすら登っていきます。しだいに雪が深くなり、辺りは一面の雪景色。足元には鹿の足跡がくっきりと残っていて、時々コロコロとしたフンも発見、この道を鹿も歩いているのかと思うと何だか楽しくなります。

 8時50分、“丸尾のブナ”に到着。樹齢600年というブナの巨木は根元に大きな穴があいており、老木ながら大きく枝を広げて立っている姿は凛としていて、存在感にあふれていました。ここでもう一度アイゼンのベルトを締め直し、再び出発。雪を踏みしめながらさらに登っていきます。幸いにも風が全くなく身体はポカポカ、雪山登山を満喫。

 9時25分、一面深い雪に覆われたキャンプ場に到着。キラキラと輝く雪の上を、足を取られないように前の人の足跡に続いて歩いていきます。すると突然、息を飲むような絶景が目に飛び込んできました。雄大な展望に思わず「すごーい!」と感動の声。さらに5分ほど進むと、明るく開けた山頂に到着。あちこちから「ヤッター!」と歓声が上がります。

 頂からの眺めは、これまであまり見たことがないほどの絶景でした。西には白銀に輝く中央アルプスの峰々が屏風のように連なり、その麓に広大な伊奈盆地が広がっています。その中を天竜川が蛇行し、山々と町が一望できる景色は本当に美しく、ため息が出るほど。さらに東に目をやれば、雄大な南アルプスの大パノラマ。みんな  「あれが昨年登った北岳・間ノ岳」「あれが木曽駒ヶ岳」と、指をさしては山の頂を確認。抜けるような真っ青な空に雪をかぶった峰々が映え、見つめているだけで心が洗われていくようでした。
 雪の上にシートを敷いて、お弁当タイム。絶景を眺めながら食べるおにぎりの味は格別で、50分間の休憩があっという間に過ぎてしまいました。

 10時20分、もっともっと見ていたい気持ちを抑えて、下山開始。同じ道をひたすら下っていきます。急な斜面も危険な個所もないので、安心して一気に下りました。10時50分、丸尾のブナを通過し、午後12時、無事駐車場に到着。
 歩行時間は3時間、いつもの登山に比べると短いものでしたが、雪山登山と予想以上の大展望をたっぷりと味わうことができ、みんな大満足でした。

 帰りは恒例の温泉  中央アルプスが一望できる展望風呂“望岳荘”に寄り、ゆっくりとお湯に浸かって疲れを癒しました。そこには “ハチ博物館” が併設されており、今回は時間にゆとりがあったので見学することにしました。
 どんなものが展示されているのか恐る恐る入ってみると、世界最大のハチの巣や、いろいろな形をしたハチの巣がいくつも展示されていました。なかでも、キイロスズメバチによる直径2.25m、高さ2.7m、周囲6.6mのハチの巣には思わず「わあ、大っきい!」と、信じられないほどの巨大さに仰天。

 本来、キイロスズメバチは1匹の女王蜂を中心に集団行動で巣をつくります。ハチの研究家 “富永朝和” 氏が、長年の研究からハチの習性を活かし、2年がかりで114匹の女王蜂と50万匹の通い蜂による共同作業により完成させたものです。他にも、全長4.1mもの長いハチの巣や、長野冬季オリンピックに因んで作られた聖火ランナーの形をしたものなどユニークなハチの巣に、みんな見入っていました。この地方でハチの子を食べる習慣があるのは知っていましたが、攻撃性の強いスズメバチを研究し、世界最巨のハチの巣までつくらせてしまう研究者がいたことに驚きました。

 今年の初登山は、素晴らしい景色と最高の天気に恵まれ、幸先のよいスタートとなりました。大自然からたくさんのエネルギーをもらい、今年も健康フレンドの仕事に、奉仕活動に、そして登山にも精いっぱい頑張っていこうと決意を新たにしました。