トクホのいい加減さ

 先月、花王の『エコナ』シリーズ全商品の“一時販売自粛”という報道が流れ、「エコナは本当に安全なのか?」という波紋が広がっています。
 自粛の理由は、油脂の製造工程における脱臭の過程で副生される「グリシドール脂肪酸エステル」という物質が高濃度に含まれていたことが判明したからです。この物質は、体内で消化されると遺伝子や染色体に影響をもたらす発ガン性物質に変わる可能性があるとして、今、欧州で安全性の議論が高まっています。

 『エコナ』といえば、「体に脂肪がつきにくく、コレステロールを下げる油」として人気の高い商品です。お中元・お歳暮の定番商品でもあります。花王では10年以上も前から  「コレステロールや中性脂肪が高めの方、肥満気味の方におすすめ」と大々的に宣伝してきました。健康が気がかりなお父さんもパクパクと揚げ物を食べているCMを流しては  「油料理を控えるのではなく、美味しく食べて健康にプラス!」と謳ってきました。しかも国から特定保健用食品(トクホ)の認可を受け、日本人間ドック学会の推薦も受けています。

 こうした宣伝を信じて、少し高価でも健康によいものを、とわざわざ選んで使ってきた方、また贈り物に利用してきた方も多くいらっしゃるはず。もし欧州の研究機関が発表したように“発ガン性”を持っていることが事実であるなら、消費者のショックと不安は本当に大きいものと思います。

思い出すのは……

 このような問題が発生すると、1980年代のアメリカを思い出します。当時アメリカでは、動物性脂肪の摂り過ぎが健康に害を及ぼすとして、人々はこぞって植物性油を摂るようになっていました。「植物油は健康によい」というのを頭から信じて、“薬”のようにスプーンで飲む人まで現れたのです。しかし1981年、アメリカ国立ガン研究所は  「植物油はコレステロール値や心臓病発生の確率をさげることはなく、それどころかガンの発生率を高める」ことを公表。言うまでもなく、アメリカ中が大きな衝撃を受けました。  今回の 『エコナ』 の問題は、これとよく似ています。

花王が”トクホ”を返上

 花王は当初から、現時点での調査では安全性に問題はないとし、販売自粛の理由はあくまでも「消費者の不安を取り除くため」と強気な姿勢を示していました。しかし先日、消費者庁が『エコナ』について“トクホ”の表示許可の取り消しに向けた再審査手続きに入ることを受け、自ら“トクホ”を取り下げる「失効届」を提出し、受理されました。花王のこうした対応は、消費者庁による再審査という事態を重く受け止めた判断であるとして、評価する意見もありますが、今回の花王のやり方は、前代未聞の“トクホを取り消された会社”というダメージを何としても避けたいという思惑が大きかったように思われます。

 花王は今後、技術の精度を高め「グリシドール脂肪酸エステル」を一般植物油と同等のレベルにまで低減したうえで、『新生エコナ』として再度“トクホ”の申請手続きをしていくとのこと。

重要なのは油料理を減らすこと

 健康フレンドでは、肉食と並んで油料理の増加が生活習慣病を急増させている原因であると訴えてきました。油料理は極力減らすか、たまの楽しみ程度にとどめることを勧めています。日本人の健康を考えたとき、本当に重要なのは油料理を減らすことであって、 『エコナ』 のような人工的に手を加えた不自然な油を摂ることではありません。ましてや生活習慣病予備軍の人々に対して  「不自然な油を使って安心して油料理を食べましょう」などと宣伝するのは、明らかに間違っています。これでは人々が、健康になれるはずがありません。

 “日本人間ドック学会”が『エコナ』を推薦していたというのも、バカバカしさを通り越してそら恐ろしい感じがします。それにしても、『新生エコナ』として新たに“トクホ”の認可を受ける予定とは……食品企業の露骨なまでの営利主義が、常に“食”を不健全なものにしていることが、ここでもまた証明されました。

 今回の事件は、国が有効性や安全性を認めている“トクホの基準”のいい加減さを、明らかにした出来事でした。厚生労働省の今後の対応に注目していきたいと思いますが、あまり期待はできません。この問題をきっかけに消費者が  「トクホ=安全の保証」というこれまでの常識を覆すことになるのなら、良い教訓といえるのかもしれません。