

これまで“上高地”には2回、晩秋と初夏に訪れています。それぞれに素晴らしい上高地の魅力をたっぷり満喫してきました。そして今年の初登山は、スタッフ全員の「雪の上高地へも行ってみたい!」という願いから、“雪上トレッキング”に決まりました。どんな景色に出会えるか、ワクワクしながらその日を待ちわびていました。
4月2日、午前3時に豊橋を出発し、東海北陸道を北上して高山経由で上高地に向かいました。「ひるがのパーキングエリア」で、冷たく澄んだ空気の心地よさを感じながら登山靴にはき替えました。高山を過ぎた辺りから外は雪景色に変わり、いよいよ雪上トレッキングかと、胸が高鳴ります。
冬の上高地は、4月下旬の開山祭まで山小屋やホテル、バスターミナルなど全ての施設が閉鎖されるので、この季節に上高地に入るためには、手前の“釜トンネル”から歩いていくことになります。


午前7時、“釜トンネル”に到着。帽子や厚手の手袋など防寒着を万全にし、さらに真っ暗なトンネルを抜けるためのヘッドランプを頭に装着 皆、なかなか様になっています。軽い準備体操をし、上高地を目指して全長1.3キロの釜トンネルをスタートしました。
トンネルの中は工事用のトラックが通行するための照明が所々に灯り、ヘッドランプがなくても大丈夫でした。トンネル内はゆるやかな上り坂になっていますが、薄暗いせいか実際より傾斜をあまり感じず、黙々と進みました。シーズン中なら、バスであっという間に通り過ぎてしまうトンネルを自分たちの足で歩くというのも、冬の上高地ならではの体験です。
30分ほどでトンネルを抜けると、そこはもう一面の銀世界 あまりの眩しさに、皆あわててサングラスをかけました。


少し歩くと、雪の“焼岳”が目に飛び込んできました。頂きからは時々噴煙が立ちのぼっています。この辺りはすでに上高地の玄関口。はやる気持ちを抑え、時折通るダンプカーをよけながら、凍った道を慎重に歩きました。
ゆるやかにカーブした道を過ぎると眺望が開け、前方に“穂高連峰”がそびえています。雪に覆われた山肌が朝日をあびて輝き、連なる稜線の先には“前穂高”の勇姿を望むことができます。「うわー、きれいだね」と、その美しさに思わず歓声があがりました。いつもは険しく見える峰々が雪の衣をまとった優雅な姿をしていて、まるで私たちを優しく出迎えてくれているようでした。その姿に見とれながら、さらに進みました。

“大正池”が見えてくる辺りから本格的な“雪上トレッキング”の始まりです。深い雪の中では、雪の上についたトレース(踏み跡)が唯一の登山道 それを目印に道をたどっていきます。トレースは登山者らによってほどよい硬さに踏み固められているため、スノーシューやアイゼンがなくても安全に歩くことができます。それでも油断すると雪の中にズボッと足を取られるので、ストックを持つ両手に力が入ります。
山々に囲まれ、シーンと静まった大正池の湖畔で小休憩。池には数羽のカモだけがのんびりと泳いでいて、まるで絵ハガキの中に飛び込んだようでした。今までバスの中からしか眺めたことがなかったスタッフが、池の水のあまりの透明さに驚いていました。

大正池の湖岸を田代橋に向けてさらに進みます。カラマツやダケカンバの林の中は、登山道以外に人の足跡はなく一面の雪景色です。スタッフの一人が「ほら、あそこに……」と指をさした先には、雪の上に点々と動物の足跡がついていました。しかしどんなに目をこらしても、期待した動物の姿を見つけることはできませんでした。時折、枝についていた雪が風にゆすられて落ち、頭の上から粉雪のようにキラキラと輝いて降りそそぎます。雪を踏む足音が心地よく響き、おおらかな自然の懐に包まれている幸福感に浸りました。

上高地の地形は起伏がなく、雪上トレッキングを楽しむには絶好の場所です。けれど、木道を渡るときには緊張感が走ります。木道の上には、どこもカマボコ状にこんもりと雪が積もっていて、道幅が狭くなっています。まるで平均台の上を歩いているようで、ちょっと気を抜くとたちまち足を取られ、ヒヤッとさせられます。冷たい水の中に落ちないように細心の注意を払って渡りました。

田代橋からは、梓川の西側のコースをたどって歩きました。午前10時、目的の河童橋に到着。シーズンには大勢の観光客で賑わっている河童橋が、この日は私たち以外に人影はほとんどなく、まさに貸し切り状態です。売店やホテルの出入り口や窓には、雪から守るための板が取り付けられていました。冬ごもりをしている静かな上高地の中で、梓川だけが変わりなく清らかに流れています。その景色を背後から包むようにして穂高の峰々が私たちを見下ろしていました。

観光客のために置かれているベンチにも雪が積もっていたので、持ってきたスコップで雪を払って座りました。気温が少し上がり朝ほどの寒さは感じませんが、やはりじっとしていると身体が冷えてきます。防寒着をしっかりと羽織って、温かいお茶をすすりながら早めの昼食をとりました。冬の河童橋の景色を存分に堪能し、ゆったりと時間を過ごしました。
帰りは、梓川の東側を進むコースを川沿いに田代橋まで戻りました。この辺りは、焼岳や西穂高への登山口です。「今度は、焼岳の頂上から上高地を一望してみたいわね」と話しながら、朝と同じ道を歩きました。釜トンネルへ戻ってきたのは、午後1時半。初めての雪の上高地を満喫して、皆、大満足の笑顔でした。中には、雪焼けで頬や鼻の頭がほんのりとピンク色に染まったスタッフも……。
平湯温泉でさっぱりと汗を流し、しっかりと目に焼き付けた雪景色を思い出しながら帰路につきました。

今年の登山の一番の目標は、“槍ヶ岳”です。その時にはまたこの上高地を訪れます。すでに槍ヶ岳に登っているスタッフの話によると、これまでの登山の中で最高クラスの高低差だとか かなりハードな登山になりそうです。この大きな目標に向けて、これから登山の回数を増やしていきたいと思っています。