本当に怖いネット・ゲーム依存症

 週刊新潮の11月5日号に「学力低下の元凶はスマートフォンだった!」という記事が載っていました。仙台市の教育委員会と東北大学が小中学生を対象に調査を行った結果、スマホやケータイを使ってのラインやゲームが、子供たちの“学力低下”に直接影響を与えている可能性があることが判明。調査に携わった東北大学の川島隆太教授は、「早急に子供のスマホ使用に規制をしなければ、大変なことになるかもしれない」と危惧していました。

 実はすでに、そうした子供たちのネットゲームと学力低下の関係を裏づける内容の本が出版されています。それが『インターネット・ゲーム依存症』です。著者は10年前からネット依存・ケータイ依存に警告を発してきた精神科医の岡田尊司氏。ネットゲーム依存症の治療に携わる中で見てきた症例や症状、依存に至るプロセス、予防や克服方法などを分かりやすく説きながら、ネットゲームに潜む危険性を訴えています。

 私たちも、これまで何度か“ケータイ中毒”について述べてきましたが、この本を読んで改めて“ネットゲーム依存症”の恐ろしさを実感しました。そこで今回は、岡田氏の著書『インターネット・ゲーム依存症』の中から少しご紹介したいと思います。

 ネットゲームと言えば、今や一大産業の一つ、テレビをつければ必ずと言っていいほどさまざまなCMが流れてきます。しかしその裏では、韓国をはじめ中国・アメリカ・シンガポールなどで“ネットゲーム依存”が深刻な問題となっています。

 日本も例外ではなく、中高生を対象に行われた大規模調査(2013)で、8.1%の子供が病的な依存を強く疑われる、という結果が報告されています。また、昨年発表された厚生労働省研究班の調査によると、ネット依存の傾向が疑われる成人は421万人、5年前より1.5倍に増加しているとのこと。子供と大人を合わせると、なんと500万人以上にも上ると推定されています。

 さらに、アジア6か国でネット依存の実態を比較した研究(2014)では、12才から18才の若者のネットゲーム利用率が日本は約40%に上り、韓国や中国をぬいてトップ。ネットゲーム依存が深刻とされる中国でも11%ですから、その4倍近い水準となっています。

 こうした結果は、今後日本でますます“ネットゲーム依存”が深刻化していくことを示しています。川島教授の言葉を借りれば、まさに、大変なことになるのは間違いなさそうです。

 “ネットゲーム依存症”と言っても、日本ではまだまだ知られていないのが現状。大半の人は「ゲームで依存症になるなんて」と、軽く考えています。ましてや“麻薬中毒”に匹敵するほど恐ろしいものとは、思ってもいない人がほとんどではないでしょうか。

 しかし近年、次々とネットゲーム依存に関する研究がなされ、麻薬中毒患者の“脳”と同じことがネットゲーム依存者の“脳”にも起きていることが明らかになりました。これは重度のネットゲーム依存によって「脳が壊れる」可能性を強く示すもので、世界中を驚かせました。

 具体的な症状としては、睡眠障害や学業成績・職業機能の低下、注意力や記憶力の低下。さらにうつ状態・無気力・神経過敏・攻撃性の増大・頭痛などの心身の不調があげられます。長時間ネットゲームをした人ほどその影響は強く表れ、恐ろしいのはゲームをやめても脳は元の状態に戻らないことです。気づいた時にはもう手遅れ、強い決意をもってやめようとしないかぎり、依存はどこまでも続いていきます。引きこもりになるケースも多く、貴重な一生を台無しにしてしまいます。

 麻薬やアルコールを安易に子供に与える親はいません。しかし“ネットゲーム依存”の恐ろしさを知らないために、子供がゲームに夢中になっていても見逃している親が多くいます。子供たちの将来を思うと、本当に正しい知識の重要性を感じます。

 ネットゲーム依存の対策にいち早く乗り出したのは、韓国と中国です。韓国では、10年前から国を挙げてネットゲーム依存の防止と治療に取り組んでいます。また2011年からは、16才未満の子供に対して深夜0時から朝6時までネットゲームへのアクセスを規制し、成果をあげています。

 中国では、2007年にネット依存症患者が都市部だけで2400万人になったのを受けて、オンラインゲーム依存症システムを試験的に導入し、18才未満の子供のプレイ時間を制限しています。これにゲーム会社も協力して、2011年から全面的に実施しています。また、世界で初めてネット依存を“病気”として捉え、積極的な治療を行っています。

 一方、日本はと言うと、皆さんもご存知のようにどんなに小さな子供でもやり放題の野放し状態です。大規模調査の結果から、ネットゲームが深刻な事態を招いているにもかかわらず、政府はゲームメーカーに遠慮をしていっこうに動こうとしません。

 そうした弱腰の政府に対して岡田氏は、強い口調で次のように述べています。「中国や韓国は、世界のトップシェアを持つにもかかわらず、強力な規制シフトを敷いて、若い世代を守ろうとしている。それが当り前だろう。自国の若者が、中学生や小学生までも“麻薬依存”になるのを、黙って見ている方がおかしい。それで、国としての責任を全うしていると言えるだろうか。中韓だけでなく、ベトナムやタイも、児童がプレイできる時間などの規制を行っている。本気でこれからの世代を守るという姿勢こそが、今求められている」この意見には、私たちも全く同感です。

 国の対策に期待したいところですが、今の政府ではとても望めそうにありません。 “タバコ”がいい例です。今では禁煙が当り前ですが、政府が喫煙対策に乗り出したのは2002年、最初に発ガン性との関連が報告されてから実に70年近く経ち、WHOが勧告を出してから30年以上が経過しています。ことなかれ主義の政府の対応を待っていては、とても子供たちは守れません。岡田氏は、「ネットゲーム依存を防ぐ第一歩は、危険を知ることである」と述べています。

 私たちも、本当にそう思います。ネットゲームに潜む危険性をちゃんと知っているのと知らないのとでは、大きな違いがあります。私たちは、ネットゲーム依存は麻薬依存と同じくらい恐ろしいものであることを、一人でも多くの方に知ってほしいと思っています。そして、自分の子供や孫はもちろんのこと、周りの人たちにも伝えていきたいと考えています。

 皆さんの中で興味を持った方がいらっしゃいましたら、岡田氏の本をぜひ読んでみてください。ネットゲームに対する認識が変わるものと思います。

急増するスマホ依存症に警告

 先々月、「スマホやめますか、それとも信大生やめますか」という衝撃的な発言がネット上を駆けめぐり、大きな波紋が広がりました。これは、信州大の入学式で山沢学長が新入生に向けて語ったあいさつの中の一文です。「よくぞ言ってくれた」と喝采する人、「時代遅れも甚だしい」と一蹴する人など、さまざまな意見が飛び交いました。

 皆さんの中にも記憶に新しい方がいらっしゃるかと思いますが、山沢学長のあいさつの内容がとてもよかったので少し紹介しながら、スマホの問題を取り上げてみたいと思います。

 現代では、さまざまな分野において独創性や個性が求められています。そうした世相の中で、自分に何ができるのかと考え、“自分探し”のために大学に入る学生も多くいます。昔から「自分探しの旅に出る」という言葉をよく聞きますが、そうした“自分探し”に対して学長は、「若い時の自分探しは勧められません」ときっぱりと否定し、次のように語っています。

 「個性を発揮するとは、何か特別なことをするのではなく、問題や課題に対して常に“自分で考えること”を習慣づける、決して“考えること”から逃げないことです。自分で考えると他人と違う考えになることが多くなり、個性が出てきます。豊かで創造的な発想となります。学生でいうと、普段の勉強に真剣に取り組むこと、“知識の量”を主とするのではなく、“知識の質”すなわち自ら探究的に考える能力を育てることが大切である」と述べています。

 そして、創造性を育てるうえで特に心がけなければならないこととして、「時間的・心理的な“ゆとり”を持つこと」「物事に捉われ過ぎないこと」「豊か過ぎないこと」「飽食でないこと」を挙げています。

 さらに、昨今のモノやサービスが溢れている現状の代表例としてケータイを挙げ ―  「スマホ依存症は知性、個性、独創性にとって毒以外の何物でもありません。スマホの “見慣れた世界” にいると、脳の取り組み情報は低下し、時間が速く過ぎ去ってしまいます。スマホやめますか、それとも信大生やめますか。スイッチを切って、本を読みましょう。友達と話をしましょう。そして、自分で考えることを習慣づけましょう。自分の持つ知識を総動員して、物事を根本から考え全力で行動することが、独創性豊かな信大生を育てます」と述べています。

 何度読んでも、本当に的を射た発言であると思います。私たちも人間には、心のゆとりが必要であり、物質に流されず、豊かであっても質素な生活を心がけることが大切であると考えています。そして以前から、急増する“スマホ依存症”を危惧していたので、山沢学長の思い切った発言に、思わず拍手を送りました。

 新聞によると、スマホの所持率は男子高校生が80.6%、女子高校生では95.1%。1日の平均利用時間は男子高校生が4.3時間、女子高校生においてはなんと6.4時間。さらに、6時間以上が4割を超え、うち12時間以上が1割を超えていると言います。当然 「ながら」 利用も多く、「テレビを見ながら」が74.8%、「ご飯を食べながら」が38.8%、「ネットを止めようとしても止められず苦しい思いをした」という女子高生が4割近くもいるとか。これでは完全に“スマホ依存症”です。しかもこんなにも多くの子供たちが罹っているとは、驚きです。

 “依存症”と言えば、多くの人はアルコールやタバコやドラッグなどを思い浮かべます。最近では、危険ドラッグ(脱法ハーブ)による事件が増え、その恐ろしさが表面化しましたが、“スマホ依存”についてはほとんどの人が理解していません。それどころか、「スマホ依存なんて、大した問題じゃない」と思っている人が多くいます。自分の子供がご飯を食べながらスマホをいじっていても、「仕方ない、いつかは卒業するだろう」と安易に考えている親も多いのではないでしょうか。

 私たちは、“スマホ依存・ネット依存”は、アルコールやドラッグの依存症とは比べものにならないほど有害であると考えています。それは、人間にとって一番大切な“心・魂”に大きなダメージを与えてしまうからです。

 心を成長させるためにはまず、時間的・心理的にゆとりを持つことが大切です。一人になって自分の内面を見つめたり、心静かに瞑想をしたり、自然の中に身を置くことで魂に力が湧いてきます。また、良い本をたくさん読んだり、友達と会話したり、物事を自分でじっくりと考えることが重要です。そうすることで心が育まれていきます。それは子供だけでなく、誰にとっても必要なことです。

 しかし今の子供たちを見ると、絶えずスマホをいじっては多くの時間を費やしています。自分の心を見つめることをせず、常に他人を気にしながら外面だけを取り繕っています。またゲームに没頭し、快楽や刺激をひたすら追い求めています。人間性を培っていかなければならない大事な時期を無駄にしているだけでなく、知らず知らずのうちに心が蝕まれています。

 アルコールやドラッグへの依存は、肉体の破壊を招くことになりますが、スマホ依存は“心・魂”の破壊を招いてしまうという、人間にとって致命傷とも言える深刻な問題を含んでいるのです。山沢学長の言葉のように、スマホ依存は毒以外の何物でもありません。

 そうした危険性があることに気づいている人はまだ少数ですが、アイフォーンやアイパッドの生みの親である、あのS・ジョブズ氏は、自分の子供にはケータイやタブレットを使わせていなかったと言います。ITを知り尽くした彼だからこそ、その危険性を一番実感していたのかもしれません。

 先日、ショッキングな記事を目にしました。それによると昨年1年間で、出会い系以外の交流サイトを使って性犯罪などの被害に遭った18歳未満の子供が1421人、統計を取り始めて以降最多だったことが判明。サイトへのアクセス手段として約8割の子供がスマホを利用し、スマホの普及にともない被害に遭う危険性も増加していることが分かりました。数年前なら出会い系サイトを使って被害に遭った子供が多くいましたが、出会い系サイト規制法が施行されてからは年々減少し、それに代わって他の交流サイトから被害に遭うケースが全体の9割を占めていました。

 しかし、こうした数字は被害を警察に訴えた件数であって、泣き寝入りをしている子供がいることを考えると、実際はかなりの数に上っているのではないでしょうか。辛い思いをしている子供たちのことを考えると、本当に胸が痛みます。規制をしても悪事を企む人間は後を絶たず、あの手この手で子供たちを狙ってきます。大人の目の届かないところで危険がすぐそこまで迫っているかと思うと、親は気が気ではありません。性犯罪だけでなく、ネットいじめやそれによる自殺など、今では深刻な社会問題にもなっています。増え続ける被害を食い止めるには、思いきってスマホを手放すしか方法はないのではないでしょうか。

 以前も述べましたが、私たちはケータイやスマホ自体が悪いと考えているわけではありません。ケータイやスマホはとても便利な機器で、今ではさまざまなことに利用されています。しかしこうした“文明の利器”は、あくまでも道具であって使い方が重要です。人間がしっかりとコントロールして用いる分には、何の問題もありません。しかし反対に、振り回されたり、翻弄されるようになると、人間にとって一番大切な“心の成長”を阻害してしまいます。人間に害をもたらすくらいなら、「持たない方がいい」と言わざるを得ません。大人ですらコントロールできない人が多いのに、どうして子供がコントロールできるでしょうか。

 昨年、愛知県刈谷市の小中学校で、夜間のケータイやスマホの使用を禁止する試みが開始されました。福岡県春日市でも、中学生にスマホの使用制限と歩きスマホや自転車に乗りながらのスマホを禁止しました。私たちもこうした取り組みには大賛成ですが、その程度の規制では、問題を解決することはできないとも思っています。さらに踏み込んで「18歳未満はスマホを持つべきではない」と考えています。スマホ依存も女子高生が最も多く、性犯罪被害も17歳が最も多いことを考えると、18歳未満ではスマホをコントロールすることができないのは明白です。

  こうしたことを言うと必ず、「悪いものを取り上げたら良くなるという発想は、あまりに短絡的すぎる。正しい使い方を子供に指導すべきである」と反論する方がいます。なかには、「子供にはちゃんとルールを決めて買い与えた」という親もいますが、果たしてどれだけの子供がそのルールを守れているでしょうか。

 今の子供たちは、親と決めたルールよりも、ネットでのつながりを優先させなければ学校生活が成り立たないような状況に置かれています。スマホが子供たちにもたらす影響は、教育やルールづくりといったきれい事では解決できないほど深刻化しているのです。個々人で解決できるような問題ではありません。国が一刻も早くこの問題の重大性を理解し、法的に規制していかないかぎり、“スマホ依存症”はますます拡大し、子供たちの心は確実に蝕まれていきます。強制的に使用を制限するという強引さがなければ、子供たちを守ることはできないと思います。

 多くの人々は、未来の子供たちを思い“原発反対”を熱心に訴えていますが、私たちは“スマホ依存症”の方が、はるかに重大な問題であると考えています。今回の山沢学長の発言のように、スマホの危険性に気づいた大人がもっと声を上げ、問題意識が高まっていくこと、そして何よりもまず、大人たちが子供に手本を示せるようになることを心から願っています。