

先月7日、世界保健機関 (WHO)が10日の“世界自殺予防デー”を前に、世界の年間自殺者数が推定100万人に上っていることを発表し、解決に向けた迅速な行動を呼びかけました。WHOによると年間自殺者数は戦争犠牲者と殺人による死者を足した数より多く、40秒に1人が自殺している計算になるとか。さらに、未遂者数はその20倍にも上っているというのですから、本当に驚きです。
日本も例外ではなく、厚生労働省の発表によると平成10年以降自殺者が毎年3万人を超え、深刻な社会問題になっています。その中で見逃せないのが「健康問題」による自殺 平成21年の調査では、原因や動機が特定している自殺者の約6.5割が健康問題、そのうち“うつ病”による自殺が約4.4割を占めています。自殺の背景にこうした“うつ病”をはじめとする精神疾患が大きく関連していることが明らかとなり、今、うつ病対策が急務となっています。
今回はこの“うつ病”について、私たちが感じていることを少し述べてみたいと思います。

“うつ病”とは気分障害の一種で、抑うつ気分や不安・いらだち・精神活動の低下・食欲不振・不眠症などを特徴とする精神疾患です。今でこそ一般的によく知られていますが、昔はたまに聞く程度の病気でしかなく、「怠け病」などと呼ばれていました。当時を思うと、理解されずに辛い思いをした人が多かったのではないかと察します。
厚生労働省の「患者調査」によると、うつ病などの気分障害患者数は、平成8年には43.3万人だったのが、平成20年には104.1万人と、12年間で約2.4倍、うつ病にかぎっては3.4倍に増加しています。しかもこうした心の病気は医療機関への受診率が低いことから、実際はこれよりもっと多くの患者がいることが推測されると言います。
最近ではうつ病に苦しんでいた芸能人の話なども聞くようになり、ここ数年で最も身近になった病気の一つと言えます。WHOの予測によると、2030年には世界中で他の病気の患者数をおさえて、うつ病の患者数がトップになると言われていますから、ますます増加するのは避けられないようです。

今年8月、ホリスティック医学の世界的権威 アンドルー・ワイル著『ワイル博士の うつが消えるこころのレッスン』(角川書店発行 上野圭一訳)が出版されました。ワイル博士自身の実体験と長年の臨床経験をもとに、理論編・実践編・うつ病克服の8週間プログラムなどが述べられています。
その中で博士はまず、「満足」よりも「知足」を感じることの大切さを説いています。人間は欲望を満たす一時的な「満足」よりも、「足るを知るこころ」つまり欲求や欲望の満足に関心を向けず、自己のありように、自己に与えられた情況に安らぎを覚えることで永続する「幸福」を感じることができると言及しています。簡単に言えば、かつて多くの日本人が持っていた心 「自分の現状に不満を抱かず、『すべてよし』として感謝を持って取り組んでいればいつも幸せでいられる」ということです。
皆さんの中には、「なぜこれが“うつ病”の増加と関係しているのだろう?」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。実は、うつ病の発症率は近代化が進んでいる先進諸国ほど高く、同時にそうした国ほど多くの人たちが不幸をかこっているという現状があるからです。現に先進諸国のトップを走るアメリカがうつ病患者比率も1番、大多数の人々が不幸を感じていると言います。日本でも以前、「幸福度調査」の結果が話題になりましたが、途上国から見れば羨むほどの快適な生活をしていながら、「自分は幸せである」と感じている人がはたしてどれだけいるでしょうか。おそらくほとんどの人が何らかの不満や不安を抱えているのではないかと思います。
そうした現実を踏まえて博士は 「幸福は内部の源泉から自発的に生じるもので、外部に求めるのは逆効果である」 とし、「足るを知るこころ」と「奉仕精神・無私の精神」の強化を勧めています。
私たちも本当にそう思います。多くの人々はもっとお金があったら、もっと物が豊かになったら幸せになれると考えます。しかし私たちは、人間は「拝金主義・物欲主義」では決して心の平安は得られないし、幸福感を持つことはできないと考えています。博士が言うように、お金や物といった外部のもの(物質) に幸福を求めても逆効果なのです。幸福は内面から滲み出てくるものであり、それは「利他愛の精神」や「奉仕精神」から生まれるものだからです。
しかし現実は、世界中が経済中心・物質中心・自己の利益や自国の利益中心に動いていて、近年さらに拍車がかかっているように思います。そうした考え方が変わらないかぎり、「本当の幸福」は得られないし、うつ病の増加を抑えることもできないのではないでしょうか。

ではなぜ、この十数年でこうも爆発的にうつ病が増加しているのでしょうか。これまで多くの研究者がさまざまな成因論を発表してきました。脳神経機能の変調によるもの・オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸のアンバランス説、またうつ病にかかりやすい性格論などが有名ですが、どれも的を射た理由とは言えません。
それに対し博士は、画期的な成因論を示しています。それがインターネットなどの氾濫です。博士は 「最近生じた顕著な変化を一つだけ挙げるとすれば、それはコミュニケーションと情報伝達における目覚ましいテクノロジーの進歩だろう。インターネット・eメール・携帯電話・マルチメディアが氾濫するこの時代に、われわれはかつてない大量の情報負荷・刺激負荷の重圧にさらされている。それらはいずれも社会からの孤立を助長し、確実にわれわれの健康に影響を及ぼすものばかりである。人間がこれまで体験したことのない「情報過多」と「自然界に存在しえない刺激」に人間の脳が適応できない結果として、前例のないほどの大量の人たちが抑うつ状態にある」と述べています。

私たちも全く同感です。もちろん、うつ病の原因がこれだけにあるとは思いませんが、それにしても今のネット中毒やメール・ゲーム中毒が健康にいいわけがありません。公園でも電車の中でもスマートフォンを必死に見つめてはいじっている人ばかり。それが若者だけでなくいい歳をした大人もそうですから、ちょっと異様さすら感じます。ネットやケータイは便利な道具としてコントロールして用いる分には何の問題もありませんが、反対に振り回されたり、翻弄されるようになると、人間の心や精神を蝕む凶器となってしまいます。
ここ数年で、多くの日本人のライフスタイルが一変してしまいました。外で遊ばなくなった子供たち、四六時中ケータイが離せない学生や大人、部屋に閉じこもってひたすらネットサーフィンを楽しむ引きこもり、ツイッターに夢中な人々……、こうした光景は以前には全く見られませんでした。ネット中心の生活は人間関係を希薄にし、自然との触れ合いを遠ざけてしまいます。人間は、家族や集団社会といった人間関係の中で学んだり鍛えられたりして成長していくものです。私たちは、大人もそうですが特に子供の心を健全に育むには、良い本をたくさん読んだり、自然に触れたり、一人で静かに内省的な時間を持つことがとても重要であると思っています。今のネット中心の社会は、そうした人間の心の健康にとって大切な時間を奪い、多くの人々を抑うつ状態に導いているような気がしてなりません。
しかし本来は、こうした中毒化したネット社会に歯止めをかけるのは行政の役目ではないでしょうか。数年前に“スタッフだより”で「子供の携帯電話の所持を規制する条例」について取り上げましたが、それ以来話題にものぼってきません。今では、子供にケータイを持たせることやゲームをさせることに疑問を持つ親すら少なくなっています。私たちは、こうした問題についてはやはり国が先頭をきって取り組み、未成年者にはケータイやゲームを法律で規制するくらいの処置が必要だと考えています。テレビを見ていると、多くの人たちが放射能の害を気にして必死に“反原発”を訴えているデモの様子が流れてきますが、本当はケータイやゲームの中毒の方がずっと深刻な問題だと思います。
とは言え、今の政府にはとても期待できませんから、解決にはまだまだ時間がかかりそうです。





