食が危ない!


 昨年末、食に関する一冊の本が出版されました。それが『ルポ 食が壊れる―私たちは何を食べさせられるのか?』です。著者は、国際ジャーナリストであり、作家の “堤 未果(つつみ みか)” 氏。これまで米国と日本を中心に政治や経済・医療・エネルギー問題などを取り上げ、数多くの書籍を出版しています。

 この『ルポ 食が壊れる』は、食をめぐる世界の現状について多くの事例を挙げ、私たちに欠かせない食が不自然な方向に向かっていることを赤裸々に述べています。今回は、この本を少しご紹介したいと思います。

 皆さんは “フードテック” という言葉をご存知でしょうか。フードテックとは、食「フード」と科学技術「テクノロジー」を組み合わせた造語で、最先端技術を活用して食に関する問題の解決や、可能性の拡大を目指していくことの総称として使われています。この本では、初めにフードテックの最新動向が述べられています。

 その一つが、最近よく耳にする「培養肉」です。植物由来の人工肉はよく知られていますが、近年、直接細胞から作る培養肉が開発され、数年後には培養鶏肉と培養牛肉の大量生産が始まるというのです。米イートジャスト社が、2030年までに1万3700トンの生産量を目指しているというから、驚きです。

 また、世間では遺伝子組み換え食品が広く出回っていますが、今では「ゲノム編集食品」が開発されています。血圧降下成分の多いトマトやトラフグやマダイなど、フグに至っては“22世紀ふぐ”として京都府宮津市のふるさと納税の返礼品に加わっているのですから、これにも驚きました。ゲノム編集食品は、遺伝子を直接操作することから自然界で起きる変異と同じものとし、安全とみなされています。そのため、表示義務がありません。2021年には、茨城県と岡山県でゲノム編集小麦の作付けが始まっているとのこと。本当に安全と言えるのでしょうか? 将来には、国産小麦としてゲノム編集された小麦を、知らずに食べているかもしれません。

 さらに、フードテックは市場規模が大きく、SDGsとも繋がっているため、グローバル企業や投資家の間で熾烈なマネーゲームが繰り広げられています。皆さんもよく知っているマイクロソフトのビル・ゲイツ氏が巨額の資金を投じ、フードテックをサポートしています。

 こうしたフードテックが進む一方、2021年、日本政府が2050年までに有機の農業面積を今の50倍(耕地面積の25%)に増やす「みどりの食料システム戦略」を打ち出しました。化学肥料を3割、農薬を5割減らすという高い数値目標に、賛否の声が上がりました。

 有機農業に欠かせないのが肥沃な土壌ですが、嬉しいことに、世界の土壌肥沃度を調べた調査で、日本の土壌はダントツ1位。国内には、まだまだ微生物が多く棲むスーパー土壌があちこちに残っていることが分かりました。

 また、化学肥料で弱ってしまった土壌を短期間で蘇らせるという画期的な炭が、日本で開発されています。それは通常の炭とは異なり、高温で焼いた “高機能炭” で、これを田畑の四隅に埋めるだけで微生物が戻り、劣化した土壌が蘇るといいます。驚いたのは、その高機能炭が廃プラスチックや電池・ビニール・建築廃材・生ゴミ・汚泥など、ゴミとして処分されるもので作れるのです。しかも有毒ガスなど一切出ず、畑に撒いて土に還るというのですから、その技術の高さに感動しました。

 さらに、有機農業を後押しする取り組みとして、学校給食への参入を取り上げていました。千葉県いすみ市の100%有機米の学校給食や、愛媛県今治市の地産地消の有機給食など、今や有機学校給食を実現した市町村は、123にも上っているとのこと。海外でも、ブラジルやフランス・イタリア・韓国・アメリカなど、有機給食を取り入れる国が急増しているそうです。

 堤氏は、フードテックと有機農業の現状を取り上げ、私たち人間は次なる食文明としてどちらの道を選ぶのかを問い、「すべてが循環するこの世界で、何を、どう食べるかは、いつしか私たちの血となり肉となり、価値観となってゆく」と述べています。

 この本には、食に関する最新情報が満載されていて、食をめぐる世界市場の裏で、今何が起きているのかを知ることができます。興味のある方は、読んでみてはいかがでしょうか。

 近年、さまざまなフードテックが開発され、中には「これってどうなの?」と思うことがあります。そんな時私たちは、それが “自然の摂理” に一致しているかどうかで判断します。人間の考え方・生き方が自然の摂理に一致していれば正しく、一致していなければ間違っていると考えます。それは食にも農業にも言え、間違った考え方・生き方が不自然な食や不自然な農業、さらに不自然なフードテックを生み出します。肉食と同様、遺伝子組み換え食品や培養肉・ゲノム編集食品などは、人間の欲望がつくり出した自然の摂理に反したものです。それらは、いずれ必ず苦しみ(病気や環境破壊など)となって返ってくるものと思います。

 私たちは、超近代的な不自然な農業が広がる一方で、自然の摂理に一致した本来の農業を目指している日本が、未来を切り拓いていくのではないかと期待しています。一人でも多くの人が自然の摂理に一致した生き方をし、健康と幸福を手にしてくださることを願っています。