理想的な食事

 最近、“SDGs(エス・ディー・ジーズ)”という言葉をよく耳にします。皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。簡単に言うと、国連が2030年までに持続可能でより良い世界、誰一人置き去りにしない世界を目指そうと掲げた17の目標です。例えば「1.貧困をなくそう」「2.飢餓をゼロにしよう」「3.すべての人に健康と福祉を」といったものです。今、この目標に向けて世界中の国々や企業や各種団体がさまざまな取り組みを始めています。

 そうした取り組みについて今年1月、NHKでスペシャル番組『2030 未来への分岐点』と題して3回シリーズで放送されました。その2回目は、人類の生命に関わる「食糧問題」を取り上げていました。今回は、その内容を少しご紹介したいと思います。

 食に関する深刻な問題と言えば、何と言っても“飢餓”です。新型コロナウイルスの影響で食料難に陥っている人が世界中で急増し、8億人もの人が飢餓状態にあると言われています。専門家は、その要因として現代の“食料システム”を挙げ、日本をはじめとする先進諸国や、中国やインドなどの新興国の人々の飽くなき食への欲求を指摘しています。「美味しいものをできるだけ安く、たくさん食べたい!」―― こうした欲求が間違った食料システムに拍車をかけ、過剰な畜産・大量の食品ロス、さらには森林破壊や大規模農業による土地の荒廃と水の枯渇といった深刻な問題を生みだしています。専門家は、このまま続けていけば世界人口が100億人となる2050年には、世界的なフードショック(食料危機)に陥る可能性があると強調しています。

 その一番の要因は、“肉食”です。昨年、全世界で生産された穀物は26.7億トンで、過去最高を記録しました。これを世界人口で割ると1人1日、約2350キロカロリーとなり、すべての人間が生存するのに十分な量が生産されていました。しかし実態は、飢餓人口が減るどころか増加しています。大切な穀物の3分の1が、牛や豚などの飼料に使われているからです。

 それだけでなく、穀物を育てるためには大量の水が必要となります。例えば、牛肉1㎏の生産には穀物が6~20㎏必要で、その穀物を生産するためには約15400ℓの水が必要となります。人々が日常的に食べている肉には、こんなにも多くの穀物と水が使われているのです。

 また、“飽食”は大量の食品ロスを生みだしています。世界で生産されている食料の3分の1(約13億トン)が捨てられているとのこと。日本でも年間612万トンが廃棄され、この量は国連が2019年に世界各国に行った食料支援の約1.5倍に当たります。その日の食べ物すら十分に得られない多くの人々がいる一方で、まだ食べられる食品が大量に捨てられている現状は、本当に心が痛みます。

 では、2050年に向けて、どうすれば100億人を養うことができるのでしょうか? 番組では、食糧問題に取り組んでいる“EAT(イート)財団”が勧めている“プラネタリー・ヘルス・ダイエット”を紹介していました。

 “プラネタリー・ヘルス・ダイエット”とは、地球の環境を守りながらすべての人間を健康的に養うことを目的とした食事で、世界16か国37人のさまざまな分野の専門家が集まって、科学的に明らかにされた知見をもとにまとめた食事内容です。

 簡単に言うと、食事の半分は野菜・果物・ナッツ類、もう半分は全粒穀物・豆類などです。肉は量ではなく質を重視し、週に98gまで(牛肉と豚肉を合わせて)、鶏肉は週に203gまでに抑えます。肉食中心の先進国では肉を8割以上削減し、魚を多く摂る日本でもそれを7割削減し、不足するタンパク質は豆類やナッツから摂取することを推奨しています。

 これによって、肉を生産するために必要な穀物は貧困層に回せると同時に、人々の健康状態も劇的に改善されるようになるとのこと。要するに、「植物性食品中心の食事」にすれば地球にやさしく、100億人を健康的に養うことができるようになるとしているのです。

 これには、私たちも全く同感です。国際的な財団が、こうした食事を“人類と地球を救う食事”として示したことは、飢餓の解決に向けての大きな一歩であると思っています。

 とは言え、EAT財団によって示された食事内容を実践するのは、飽食を謳歌している先進諸国や新興国の人々にとって容易なことではありません。ますます盛んになっている日本での“肉食ブーム”を見れば、それがよく分かります。人々が当然としている“物欲・肉欲中心の利己的な考え方”が変わらなければ、食生活を変えることはできません。

 肉食は、「自然の摂理」に反した食事です。人々が考え方を変え、「自然の摂理」に一致した「植物性食品中心の食事」にしないかぎり、いつまでたっても飢餓に苦しむ人々を救うことはできません。私たちは、地球上の人々が自然界と調和した生き方をし、全人類がともに幸せを手にすることができるような世界がつくられていくことを心から願っています。