No.114  
   2016/08/04  

    最近、健康番組で “腸内細菌” についての内容がよく取り上げられます。皆さんも、ご覧になったことがあるのではないでしょうか。以前は、人間の腸内には500種類、100兆個の腸内細菌がいると言われていましたが、近年の目覚ましい研究により、今では1000種類以上、600兆〜1000兆個の腸内細菌がいることが明らかになりました。そして、その腸内細菌(善玉菌・悪玉菌・日和見菌)のバランスが健康に大きな影響を与えているとして注目されています。  
  今回は、腸内細菌の研究の第一人者である “辨野義己(べんのよしみ)” 博士の著書『腸内細菌の驚愕パワーとしくみ』と、“松生恒夫(まついけつねお)” 博士の著書『「炭水化物」を抜くと腸はダメになる』の内容を少しご紹介して、腸内環境を整えることの大切さについて述べてみたいと思います。  
     
     
     
   “腸” というと、一般的には食べたものを消化・吸収して排泄する臓器と考えられていますが、実は、役割はそれだけではありません。健康を維持するためには免疫細胞の働きが欠かせないことは、皆さんもご存知かと思いますが、腸には全身の6割もの免疫機能が集中していると言われています。腸内に侵入した細菌やウィルスなどの有害物質を捉えて、便として体外に排出するという重要な役割を担っています。また、ウィルスが侵入しやすい鼻腔やのどや気管支などほぼ全身に、腸でつくられた抗体(免疫体)を供給しているため「免疫の司令塔」とも言われています。
  さらに、人間の感情に大きく作用する脳内伝達物質 “ドーパミン” や “セロトニン” も、そのほとんどが腸でつくられています。落ちつきと安定感をもたらすセロトニンは、腸内で約90%がつくられ保存され、脳にあるのはたった2%程度です。年々増加しているうつ病は、セロトニンの減少が原因と言われていますから、精神面の健康においても腸の役割は重大と言えます。
 
  その腸内には600兆から1000兆個もの腸内細菌が生息し、6〜7時間で1万から1000億倍に増殖、そしてほぼ3日で死んでしまい便として排出されます。驚いたことに、毎日出している大便の約3分の1は腸内細菌が占めています。そのために大便を調べることで腸内環境が分かるというわけです。
  腸内細菌は大きく “善玉菌” “悪玉菌” “日和見菌” に分けられ、健康な人はその割合が2対1対7となっています。こうした善玉菌優位のバランスを維持していると、腸の役割を十分に果たすことができ、免疫力のアップや整腸作用・老化防止・アレルギーの改善・ガン予防・気力充実など、健康でいきいきとした日々を送ることができます。
 
    一方、悪玉菌が優位になると腸内で腐敗物質をつくり、健康にマイナスをもたらします。発ガン物質の生成や老化促進・アトピー性皮膚炎・花粉症・肥満・無気力など、病気にかかりやすい体になります。大腸ガン・乳ガン・糖尿病などといった、取り返しのつかない病気を招いたり、うつ病やパーキンソン病・認知症にもなりかねません。まさに、「腸の健康は全身の健康」と言えます。    
     
     
     
    辨野氏の著書の中で驚いたのは、博士自身が実験台となって実験を試みたことです。博士は、「悪い食生活を極めたら腸はどうなるのか」を知るために、1日1.5キロの牛肉だけを40日間食べ続けたそうです。朝食にはハムやソーセージといった加工肉、昼食と夕食にはステーキ、ご飯やパン・野菜は食べず、自分の腸内環境をアメリカ人並みにしようと、脂肪たっぷりの牛肉を食べ続けました。
  すると、次第に体臭がきつくなり、顔はギトギト、体は重く疲労感がつきまとうという体調面の不調が出てきました。大便は日を追うごとに黒くなり、実験終了の頃にはコールタールのような真っ黒な便になり、臭いも強烈なものだったとか。腸内細菌の分布では、実験前には20%を占めていた善玉菌が15%に減少し、悪玉菌は10%から18%に増え、勢力関係が逆転してしまいました。
 
    私たちも、肉食中心の食生活が腸内環境を悪化させることを十分理解し、その弊害を訴えてきましたが、辨野氏の本を読んでさらにその思いを強くしました。それにしても、牛肉だけを40日間も食べ続けるなんて、私たちにはとてもできません。自らの体で実験をする辨野氏の “研究者魂” に頭が下がりました。  
     
     
     
  腸内環境を整えるのに欠かせないのが “食物繊維” です。健康番組でもたびたび話題に上り、その必要性を取り上げています。以前は何の栄養もない食べもののカスのように扱われていた食物繊維ですが、今ではその重要性が知られるようになり、炭水化物・脂肪・タンパク質・ミネラル・ビタミンに次ぐ第6の栄養素と位置付けられています。
  食物繊維には大きく分けて、水に溶けない “不溶性食物繊維” と、水に溶ける “水溶性食物繊維” があります。“不溶性食物繊維” は、胃や腸の中でも水に溶けず、腸内細菌によってもほとんど分解されず、そのまま排泄されます。保水性が高いため、胃や腸で水分を吸収して大きく膨らみ、腸を刺激して排便を促します。また、硬くて食べづらいものはよく噛んで食べるために食べすぎを防ぎます。大腸内で発酵すると善玉菌が増殖し、腸内環境を整えます。不溶性食物繊維は、全粒雑穀をはじめ豆類・種子類・ナッツ類・野菜やイモ類・キノコ類に含まれています。

  “水溶性食物繊維” は、水に溶けるとゼリー状に固まる性質があります。食物繊維が胃や小腸で他の食べ物を包みこんで固まることで、消化吸収のスピードがゆるやかになり、血糖値の急激な上昇を抑えることができます。また、コレステロールや脂肪・胆汁を吸着して便と一緒に排泄するため、血中コレステロールを減少させる効果もあります。大腸内での発酵性は不溶性食物繊維より大きく、大腸の環境を良くします。最近の研究では、大麦に含まれる水溶性食物繊維の一種β‐グルカンが免疫細胞を活性化させることが判明しました。水溶性食物繊維は、熟した果物や野菜、大麦やライ麦などの胚乳、コンニャクや山芋、海藻類などに含まれています。
 
  このように “食物繊維” にはさまざまなメリットがあります。健康を手にするためにはまず腸内環境を整えなければなりませんが、それには食物繊維は欠かせません。腸の名医である松生氏はその摂り方に着目し、「不溶性食物繊維と水溶性食物繊維を2:1の割合で摂ることが大切である」と述べています。人によっては玄米などの不溶性食物繊維の摂り過ぎが原因で、かえって腸内環境を悪化させてしまうこともあります。
  皆さんの中で便秘症の方、また「食物繊維はしっかり摂っていても便秘気味」という方は、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の摂り方を見直してみてはいかがでしょうか。
 
     
     
     
  松生氏は、腸の健康のために積極的に取り入れてほしい食品としてオリーブオイルをあげています(*ここで言うオリーブオイルとは、エキストラバージン・オリーブオイルのことです)。オリーブオイルには抗酸化作用・抗炎症作用があり、アルツハイマー病の予防や関節リュウマチの緩和、また糖尿病の改善や心疾患の予防につながると言われています。特に腸の健康にもたらす効果は大きく、便秘の人はもちろんのこと、日本人に多い大腸ガンの予防効果が実証されています。  
  オリーブオイルと言えば、真っ先に思い浮かぶのはイタリアなどで食べられている地中海式料理ではないでしょうか。近年、穀物や魚や野菜をたっぷりのオリーブオイルとともに摂る「地中海型食生活」が、健康やダイエットに有効であるという研究結果が数多く報告されています。ちなみに、よく言われる「食の欧米化」とは、肉類や乳製品などの動物性脂肪を多く摂るアメリカやイギリス・ドイツなどの北ヨーロッパ型の食生活を言い、地中海型食生活は含まれていません。
  松生氏は腸を健康にする食事として、地中海型食生活の良いところと日本人に合った和食(家庭食)を上手に組み合わせた「地中海式和食」を提唱しています。具体的には、大麦入りご飯に漬物や納豆などの発酵食品、具だくさんの味噌汁、野菜と魚介類を使ったおかず、砂糖はオリゴ糖に替えて、油を使う場合はオリーブオイルを使う、というもの。これは、私たちが提唱している「新・伝統食」とよく似ています。私たちも炒め料理やドレッシングにはオリーブオイルを使っています。また、便秘の原因は人によって異なるため、試しにオリーブオイルを積極的に摂ってみることを勧めることもあります。
 
    現在では、食生活の乱れや、ブームになっている炭水化物抜きダイエット(糖質制限ダイエット)が原因で、腸の不調を訴える患者が増えていると言います。辨野氏の実験でも分かるように、炭水化物を抜くとどうしても食物繊維の摂取量が減少して腸内環境を悪化させてしまいます。健康を手にするためには正しい食生活を心がけ、腸から健康になることが大切です。
 私たちも健全な食事で、ますます “腸美人” を目指していきたいと思います。皆さんの “腸” は、いかがでしょうか。